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私ことFKRGが書いた小説(らしき物)を掲載しています。あらかじめお断りしておきますが、かなりの長編です。 初訪問の方は、カテゴリー内の”蒼い水、目次、主要登場人物”からお読み下さい。 リンクフリーです。バナーはカテゴリー内のバナー置き場にあります。 フォントの都合上、行間が詰まって読みにくいかもしれません。適当に拡大してお読み下さい。
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蒼い水 第6章 流れ行く水 1 アップします。

アクセス数1000まであと一歩。はあ~(溜息)

 
 蒼い水              作 FKRG
 
第6章 流れゆく水 1 五月八日午前~
 
「部下の大半を失った挙句に辿りついたのが、ここか?」
古ぼけたカーテンの隙間から窓の外を見つめたまま、蒼い水東部遊撃隊隊長 大村利彦は溜息混じりに呟いた。
窓の向こうには、手入れの行き届いた水田が広がっていた。朝日を受けてきらめく緑色の稲葉の向うに、神白市街地の家並みが見える。   
「まさに、辿りついたという感じだな。おまえの隊の生き残りは二百、俺の隊に至っては百にも満たない。黒畑も元原も死んだ。KCDがこれほど手強いとは、正直、予想していなかった」
大村の隣に立った西部遊撃隊隊長 浅井京一が、沈んだ声で応じた。
明け方近く、市街地南端で合流を果たした二つの遊撃隊は、市庁舎に向けて進撃を開始した。だが、そこまでだった。KCDと一般市民による混成部隊が、各所に防衛陣地を築いて待ち受けていたからだ。
激しい抵抗に遭った東西遊撃隊は、市街地の南に広がる水田地帯の更に南、旧神白町と呼ばれる一帯まで後退することを余儀なくされた。そして今、混成部隊と東西遊撃隊は、水田地帯を挟んで対峙している。
「手強い、か…。いや、手強いと言うよりは、”死に物狂い“と言った方が適切だろう。奴らは、俺達を心の底から憎んでいる。”抵抗するな“という、KCD本部からの…川村さんからの命令を無視するほどに、な。”F中隊を皆殺しにすることによって神白の住民に恐怖心を植え付け、更には戦意を挫じく“という渋沢の作戦が、完全に裏目に出てしまったんだ。何の事は無い。俺達は、自分で自分の邪魔をしていた、ってことさ」
 大村が自虐的な笑みを浮かべた。
「反省するのは後にしろよ。問題はこれからのことだ。どうする? 三百足らずの兵力で進撃を再開しても、とてものこと市庁舎には辿りつけない。その上、俺の隊の無線機もおまえの隊のも、戦闘のドサクサで壊れてしまった。川村さんの指示を仰ごうにも、連絡することすら出来ないんだぞ」
「うむ。まあ、な…」
浅井と大村が途方に暮れた表情を浮かべた時、部屋の外に人の気配がした。
「誰だっ!?」
二人は、同時に部屋の出入り口に視線を走らせた。
「俺さ」
声と共に扉が開き、第一突撃隊隊長 郷原正がのそりと姿を現した。護衛兵が二人、その背後に従っている。
「郷原?」
「生きていたのか?」
「どうした? 幽霊でも見るような顔をして…」
ニヤリと笑った郷原は、唖然とする二人を押しのけて窓際に歩み寄った。カーテンの隙間から窓外の景色をチラリと見てから、護衛兵に向かって軽く手を振る。
「三人で話すことがある。おまえ達は外で待ってろ。…ドアは閉じておけ。俺が呼ぶまで誰も近づけるな」
 
三人だけになると、郷原は胸ポケットからタバコの袋を取り出した。一本取り出して咥えてから、袋を浅井と大村に向けて突き出す。
「吸うか?」
軽く頷いて、大村と浅井は一本ずつ抜き取った。
さして広くも無い部屋は、すぐに煙で薄くかすんだ。対流する紫煙が、カーテンの隙間から射し込む細い光りを受けてまだらの帯の様に浮き立ち、男達の顔を彩る。
「話と言うのは、他でもない」
床に落とした吸殻を軍靴のつま先で潰した郷原が、押し殺した声で言った。
「誰が蒼い水の総帥になるか、だ」
大村と浅井は、互いに顔を見合わせた。
「何を不思議そうな顔をしている。蒼い水の幹部で生き残っているのは俺達三人だけだ。他の幹部は全て死んだ。湖東も添田も渋沢も、そして如月さんも、だ。神白城址の、あの地獄のような劫火の中で生きていると思うのか?」
「そうだな」
浅井は軽く肩をすくめると、タバコを床に落とした。薄煙を上げる吸殻を軍靴の踵で踏み潰す。
「で、誰が総帥になるんだ? アンタか?」
タバコを横咥えにした大村が、郷原の顔を覗き込んだ。
「当然だろう。途中から仲間に加わったおまえ達とは違って、俺はWW3の頃から如月さんと一緒に戦ってきた。言わば先任だ。それに、おまえ達の手持ちの兵力は合わせても三百足らずだろうが? 対して、俺の第一突撃隊は四百五十。どう考えても、俺が総帥となって然るべきだ。異存は無かろう?」
畳み込むように言い終えると、郷原はギロリと二人を睨みつけた。
大村と浅井は、再び顔を見合わせた。目だけで素早く頷き合い、視線を郷原に戻す。
「あんたが総帥になるとして、これから、どうする積りだ?」
唇が焼けそうになるほど短くなったタバコを吐き捨てた大村が、ささやくような声で質問した。
「どうするって? 兵を再編成して市庁舎を目指すのさ。逆らう奴は容赦無く殺し、神白を支配下に置く。そして如月さんの遺志を継いで…」
「遺志を継いで、アンタがキングになる、か?」
「そうだ」
「良かろう。協力するよ。今から、アンタが蒼い水の総帥だ」
 一呼吸おいて、大村が答えた。浅井も頷く。
「二人とも賢明だ」
 満足気に頷く郷原に、大村が媚びるような口調で言った。
「ところで、タバコをもう一本、貰えないかな?」
「袋ごとやるよ。遠慮無く吸ってくれ」
郷原は鷹揚な手つきで、タバコの袋を大村に渡した。
「有難う、郷原さん。いや、郷原総帥。もう一つ、折り入って頼みが有るのだが」
早速一本取り出して火をつけた大村は、旨そうに煙を吐き出しながら郷原の顔を見つめた。
「言ってみろよ。俺にできることなら、何でも…」
総帥と呼ばれて悦に入った郷原は、満面に笑みを浮かべて胸を反らす。
「簡単な事だ。死んで呉れ」
「何だと? 今、何と言った!?」
窓を閉ざしていたカーテンが、風に吹かれて大きく揺らめいた。陽の光が室内に充満し、青黒いリボルバー拳銃…スミス アンド ウェッソンM29を握った浅井の無表情な顔を浮かび上がらせた。
その銃口は、郷原の眉間に向けられていた。
「お、おまえら…」
乾いた銃声と鈍い破裂音が、声の主の命を掻き消した。
ずんぐりした郷原の体が、脳漿と血を撒き散らしながら床に崩れ落ちた時、銃声を聞きつけた護衛兵が部屋に飛び込んで来た。
「郷原さんっ!」
「こ、これはっ!」
「騒ぐなっ!」
郷原の死体を見て立ち竦む護衛兵を、浅井は鋭い声で一喝した。
「郷原は、如月総帥を守り切れなかった責任を取って自決した。もっとも、自分で引き金を引けなかったので、俺が代わりに引いてやった。それだけのことだ」
押し殺した声でそう言った浅井は、薄煙を上げる拳銃の銃口を護衛兵の一人に向けた。
「おまえも責任をとるか? 護衛兵として郷原を守れなかった責任を…」
「い、いえ」
銃口を向けられた護衛兵は、慌てて首を振った。
「おまえは? どうする?」
「お、お二人に従います」
大村に睨みつけられたもう一人の護衛兵は、蚊の泣くような声で答えた。
「よし、三十分後に市庁舎に向けて進撃を開始する。お前達も準備しろ」
「は、はい」
「わ、判りました」
敬礼もそこそこに、二人の護衛兵はドタバタと部屋の外へ飛び出して行った。
「浅井よ、第一突撃隊の無線機を使って、川村さんに連絡を取ってくれ。俺は部隊を再編成する」
「わかった」
大村の後に続いて部屋を出かけた浅井だったが、二、三歩歩いた所で立ち止まり振り向いた。血に染まった郷原の死体を、冷めた目で見下ろす。
「残念だったな、郷原。お前はキングの器ではない。無論、如月もだ。俺達のキングは、川村さんの他には居ないのだ」
音高く扉が閉じられた。再び薄暗くなった室内には、郷原の死体と血の匂いだけが残った。
               *
何の前触れも無くドアが開いた。デスクに向かって書類を読んでいた島崎順一は、部屋に入ってきた三人の男達を見て軽く首を傾げた。
KCD副司令官 川村翔、参謀 梨村満、親衛中隊隊長 竹田浩介。いつも、この市長室に出入りしている男達だ。別に不自然ではない。だが、いつもと雰囲気が違う。
「正田上級兵、ちょっと…」
竹田が、部屋に居た正田ひとみを廊下へ連れ出した。
「何事かね? 敵がすぐそこまで来たのか? そんな様子は無いようだが…」
近づいて来る川村と梨村に向かって、島崎は微笑もうとした。だが川村の目を見た時、自分の顔が強張るのを感じた。
野望に色が有るならば、そしてその色に血の赤を混ぜ合わせればこんな色になるかもしれない。そんな、底知れないほどの深淵を思わす暗く黒い光りが、川村の目に湛えられていたからだ。
「市長、これを…」
梨村が、一枚の書類をテーブルの上に置いた。その書類を一読した島崎の表情は、青ざめたものに変わった。
「降伏受諾書!? 蒼い水に降伏しろと言うのか? 何の冗談だ!…川村中尉、私は、君に徹底抗戦を命じたはずだ。それを忘れたわけでは…」
「冗談では有りません。本気です。無論、あなたの命令を忘れたわけでも有りません。だが、これがあなたに…神白市市長兼KCD司令官 島崎順一に残された、唯一にして最後の選択肢です」
感情を押し殺した声で、川村は島崎の言葉を遮った。
「最後の選択肢? 何を馬鹿な。確かに、我々は兵力の大半と神白城址を失った。だが、蒼い水もそれを上回る損害を蒙っているのは明白であり、現に市街地に侵入を図った敵はB中隊と一般市民による混成部隊に押されて旧神白町に逼塞している。その残存戦力は未だ侮れる物ではないが、もはや彼らの攻勢はピークを越えた。市街地攻略を諦めて後退を始めるのは時間の問題。そう報告したのは君だぞ。川村中尉」
島崎の顔色は朱を注いだ様に赤くなり、降伏受諾書を持つ手はブルブルと震えていた。
「市長、私は常日頃言っていたはずです。戦況は刻々と変わるものだ、と。そう、先ほどあなたに報告した時には、その通りだった。だが、今は違う。戦況は変わったのです。我々に、いや、あなたに不利な方に」
「どういう事だ。私に不利な方に、とは?」
川村の表情が、鼠を追い詰めて舌なめずりをする猫を想わせるものに一変した。
「説明しましょう。旧神白町に後退した蒼い水は、残存部隊との合流に成功しました。その兵力は七百五十。間も無く、この市庁舎を目指して進撃を開始します。現在、蒼い水の指揮を執っているのは浅井京一と大村利彦。聞き覚えがありませんか? この名前」
「浅井? 大村?」
 島崎は目を細め、数瞬の間、考え込んだ。
「君がこの街にやって来た時、率いていた部下だな? 知らぬ間に姿を消したが・・・」
「そう、一年半前にね。それと前後して渋沢鼎、黒畑芳正…。何人かの部下が姿を消した。死んだわけでも、戦いを忌避して逃亡したわけでもない。私の指示で姿を消したのです。私は彼らに三つの命令を与えました。一つ目は、当時のKCDが喉から手を出すほどに必要としていた武器を探し出す事。大町市の防衛軍基地に残されていた、あの大量の武器を発見したのは実の所、彼等だったんですよ。二つ目は、当時あちこちで勃興しつつあったバンディッツ集団に潜り込み、彼らの目を可能な限り神白市から逸らさせる事。この数ヵ月間、バンディッツの襲撃が殆ど無かった要因の半分は、そのお蔭です。…まあ、残りの半分は、私が鍛え上げたKCDの精強さが周囲に知れ渡ったお蔭ですがね。そして三つ目は、群小のバンディッツ集団を統合して一つの強大なバンディッツ集団を作り上げる事。それが…」
「それが、蒼い水か?」
 島崎の問いに、川村はニタリと笑った。
「そう、その通り。蒼い水とKCDは、どちらも私が作り上げた武装集団。その性格は著しく相反しているが、いわば兄弟のようなものだ。そして、この“兄弟”の共通点は、総帥または司令官と呼ばれている男が、実は単なる飾り物で真実を知らず、共に私の掌の上で嬉しそうに踊っていた事。いずれ、その権力を私に渡さなければならないことも知らずに、ね」
薄笑いを浮かべる川村を、島崎は愕然とした表情で見つめた。
(高度な知性を持つ肉食獣。それが、この男…川村翔の本性だったのか?)
その時、ガチリと撃鉄を起こす音がした。
島崎は、それまで川村に釘付けになっていた視線を横に動かした。
唇の端に皮肉な笑いを浮かべた梨村が、拳銃を構えていた。その銃口は、島崎に向けられている。
「神白市長兼KCD司令官閣下。その書類に署名捺印をお願いします。したくないと言われるなら、それも結構。単なる形式ですから。そう、それ以上でも以下でもない。あなたが承諾しようがしまいが、この街の運命は既に決まっているのです」
梨村のやや甲高い声に、鈍い連続的な爆発音が重なった。音は、南から聞えて来る。
「攻撃が始まったようだな。…梨村、銃を下ろせ」
片手を軽く上げて梨村を制した川村は、改めて島崎に視線を向けた。
「今、無理に署名なさる必要はありません。つい先程、蒼い水と対峙している混成部隊に対して、抗戦せずに後退するよう、改めて厳命しておきました。命令に背く者は銃殺する、と言い添えて・・・。間も無く…、そう一時間も経たぬ内に、この市庁舎は蒼い水に包囲される。そしてその時、あなたは自発的に署名せざるを得なくなる」
川村は、低い笑い声を漏らした。底知れぬ深淵を想わせる黒い瞳に、五十パーセントの知性と五十パーセントの狂気が入り混じった光りを踊らせながら…。
 
 
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