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一年間でアクセス数800(しかもその内300くらいは自己踏み)などと言うサイト、他にあるのだろうか?
ほとんど自己満足の世界だよなあ。(哀)
コメントを下さった五十嵐さん、及びお情けで読んで下さっている方々、これからも宜しく。
つ~か、そろそろ(誰も読んでくれないであろう)次の作品書かなきゃ。
蒼い水 作 FKRG
第5章 激闘 4
西から神白市街地に入るには、鳥井川に架かる北鳥井橋を渡るしかない。その他の橋は、外敵の侵入を防ぐ目的で落とされているからだ。蒼い水西部遊撃隊は今、この北鳥井橋の西袂での停滞を余儀なくされていた。
「梨村の野郎。デタラメ言いやがって…」
蒼い水西部遊撃隊隊長 浅井京一は、星明りに仄白く浮かぶ橋を睨みつけたまま唸り声を漏らした。
橋の上には、四十近い死体が転がっている。皆、浅井の部下だ。橋の各所に仕掛けられていた爆弾の爆発と、それに続いた銃撃によって倒されたのだ。
ウェイブスクランブラーを使った無線通信によって市街地侵入を命じてきた梨村は、“北鳥井橋の守備兵は後退させた”と、明言した。 だが、現実はまるで違っていた。
「銃火の数を見た限りでは、敵は五,六人というところだな。橋を渡りきった所、道路を挟んだ両側の建物に潜んでいる」
いつの間にか横に立っていた元原が、落ち着き払った声で呟いた。
「五,六人だと?! 奴らはそんな小人数だと言うのか? こっちは一個小隊丸々やられたんだぞ!」
浅井は、憤然とした目で元原を睨みつけた。
「敵は、兵力の少なさを爆弾で補っている。橋の上にはまだ爆弾が残っているだろう。数を頼みに無理押ししても、こちらの被害が大きくなるばかりだ」
「だが、橋を渡る以外に川を越える手立ては無いぞ。探してみたが舟も無い。雨で水嵩の増した川を、泳いで渡れとでも言うのか?」
「泳ぐ必要は無いさ。橋を渡れば良い」
「どうやって? たった今、無理押しは無駄だと…」
「命知らずの兵を何人か貸してくれれば、俺が片付ける。こいつでな」
元原は、肩に掛けた銃を軽く叩いた。
川沿いに展開した蒼い水は、KCD B中隊第三小隊第二分隊長 牧田兼太郎上級兵が潜む道路南側の建物に向けて、猛烈な銃撃を浴びせてきた。
「よくもまあ弾が続くことだ。これじゃ、撃ち返すことも出来ないな」
苦笑いを浮かべた牧田は、崩れた壁の隙間から橋を見下ろした。
数名の敵兵が、車から引き剥がしたドアを盾代わりにして橋の中間辺りに陣取っている。道路北側の建物に潜んだ牧田の部下たちが銃撃を加えているが、応射しようともしない代わりに後退もしない。
「何をするつもりなんだ? 無駄弾を使わせようとでもしているのか…」
橋に仕掛けた四リットル爆弾を起爆すれば一度に片付く。だが、爆弾は一個しか残っていない。
「僅か数名の敵の為に使う訳にはいかないしなあ」
思案する牧田の視界の端で、味方の銃火が一つ消えた。数秒の間を置いて、また一つ消える。
「クソッ! そういうことか」
牧田が敵の意図を悟ったのは、北側の建物の銃火が全て消えた時だった。そして同時に、川向こうからの銃撃も止んでいた。
「ちきしょう!」
傍らでうずくまっていた大林初級兵が、怒鳴り声を上げて立ち上がった。
「死ね! クソッタレ野郎!」
橋の上の敵兵に向けて自動小銃を乱射する。
「馬鹿野郎! 伏せろ! 罠だ!」
牧田が制止の声を上げた時、川向こうにそびえるビルの一隅で青白い光が閃いた。
「ぐうっ!」
くぐもった悲鳴を残して、大林がのけぞるように倒れる。
「やはり、狙撃兵か…」
牧田は銃を構えて立ち上がった。マシンのような正確さと早さで光が閃いた地点をポイントし引き金を引く。…だが、手応えは無かった。
「ちっ!」
舌打ちしてしゃがみ込み、床に倒れた大林に視線を向ける。
大林の右側頭部は、熟れて弾けたザクロの実のようになっていた。即死だ。痛みを感じたのはほんの一瞬だったろう。
(奴は…狙撃兵は、自分の仲間を囮にして、わざと銃撃させた。撃てば当然、発射炎が出る。その発射炎をポイントして狙撃したのだ。よほど実戦経験を積まなければ出来ない芸当だ。街に戻ってきたA中隊のヤツから、“楠木少尉は遠距離狙撃で殺られた”と聞いたが、ひょっとして奴の仕業なのか?)
自分の体が小刻みに震えていることに牧田は気付いた。恐れから来る震えではない。武者震いだ。
牧田の上官である北川少尉は、本部の命令に忠実に従って市街地中心部にのみ守備兵力を集中しようとした。だが牧田はその命令に背き、直属の部下を率いてこの北鳥井橋の袂に布陣した。
「敵を防ぐには水際で叩くのが一番なのさ」
部下にはそう説明した。
だが、それは表向きの理由に過ぎない。本当の理由は別にある。牧田の心の中に居るもう一人の、狙撃を生き甲斐とする牧田がささやいたのだ。
「ここで待っていれば、おまえの好敵手がやって来る」
と…。
そして、その言葉通りにやって来たのだ。狙撃の腕を競うのにふさわしい好敵手が…。
「俺のカンが当たっていた訳だ」
ニヤリと不敵な笑いを浮かべた牧田の耳に、夥しい数の軍靴の音が聞こえた。
五十名近い数の敵兵が橋を渡り始めていた。牧田達が全滅したと判断し、進撃を始めたに違いない。
(最後の四リットル爆弾を使うなら今だ。銃を構えて立ち上がり、爆弾の側面に取りつけた起爆プレートを撃つ。…ほんの数秒間で片が付く。…だが、その数秒間で、敵の狙撃兵は俺をポイントして引き金を引くだろう。…どうする? 逃げるか? …いや、敵に後ろを見せるのは趣味じゃない。…じゃあ、橋の上の奴らと心中するか? あの狙撃兵を残して?)
「いや、あの狙撃兵も道連れにしてやる」
呟いた牧田の目は、獲物を狙う猟師のように光っていた。
「とっさに俺の位置を把握して撃ち返してくるとは…。KCDにも腕が立つ奴が居るじゃないか」
壁にもたれてしゃがみ込んだ元原は、ヒリヒリする頬を撫でながらほくそ笑んだ。左頬を掠めた銃弾は、背後の柱にめり込んでいる。
(俺は好敵手を探していた。狙撃の腕を競えるような奴を…。そいつが居る。この川の向こうに)
勢い良くコッキングレバーを引いた。排出された空薬莢が床に落ち、澄んだ音を響かせながら転がって行く。その音を掻き消す様に、夥しい数の軍靴の音が聞こえてきた。
「ちっ!」
橋を見下ろした元原は、小さく舌打ちした。五十名近い兵が、橋を渡ろうとしていたからだ。
「浅井のヤツ…。“待ち伏せしている敵を全て片付けるまで前進はするな”と、言っておいたのに…。だが、まあ良い。俺は俺で勝手にやるさ」
そう呟いた元原の目は、獲物を狙う狼のように光っていた。
牧田は暗視ゴーグルのスイッチを入れた。数を、一からゆっくり数える。
「一、二…」
五まで数えて立ち上がり、銃口を橋の真中付近に向けた。赤錆だらけのガードレールの支柱に、最後の四リットル爆弾が括りつけてある。その円筒形の小さな缶の側面に取りつけられた赤いプレートをポイントし、引き金を引く。
発射の反動を感じると同時に、勢い良く後ろに体を投げ出す。半瞬の間を置いて、それまで頭が在った空間を銃弾が走り抜け、背後の壁にめり込んだ。
「良い腕だよクソ野郎。だが、勝負はこれからだ」
四リットル爆弾の爆発音を聞きながら、ニヤリと笑った。暗視ゴーグルを素早く外し、再び数を数える。
「…五!」
バネ仕掛けの人形の様に立ち上がる。想った通り、爆炎の照り返しでゴーグル無しでも充分に視界が効く。銃口を、川向こうのビルの窓に向けた。スコープの中に、こちらに銃を向けている狙撃兵の姿が浮かび上がる。
「勝負だ」
牧田は、引き金に掛けた指に力を加えた。
引き金を引き切る寸前に、敵兵の姿は暗視スコープの視界から消えた。
「ちっ!」
舌打ちした瞬間、橋の上で真っ白な閃光が輝いた。反射的に目をつぶった元原は、壁を背にして素早く身を屈めた。コッキングレバーを引き、次弾を装填する。
(奴は計算ずくで爆弾を爆発させた。爆発光で他の連中の目が眩んでいる間に、俺と一対一で勝負しようって積りか? 良いだろう。勝負してやる)
そっと目を開けた。大丈夫、眩んではいない。スコープの暗視機能をオフにし、ゆっくりと数を数える。
「…五!」
螺旋を描くようにして立ち上がった体が静止した時、銃口はつい先ほど銃弾を撃ち込んだ建物の窓にピタリと向いていた。スコープに、こちらに銃を向けている敵兵の姿が映る。
「勝負だ」
元原は、引き金に掛けた指に力を加えた。
銃声が轟いた。その銃声を聞いた者は皆、一丁の銃から発射された一発の銃声だと思った。が、その音は、二丁の狙撃銃が同時に発した二つの銃声が重なった音だった。
頚動脈から大量の血が噴き出している。うつむけに倒れた牧田は、薄れていく意識の中で切れ切れに呟いた。
「少しばかり…狙いがずれた様だな。…だが、良い腕だ。酒でも飲みながら、…色々話をしたかったよ。狙撃の…ノウハウに・・・ついて…」
呟き終わらぬ内に、KCD随一の狙撃手の息は絶えた。
「手元が狂ったのか? 胸に当たったぞ。それとも、タバコを吸う時間でも呉れた積りか?」
仰向けに倒れた元原は、上着の裾ポケットに手を伸ばした。細長い緑色の葉を抜き取り、顔の上にかざす。
「だが残念なことに、俺はタバコを持ってないんだ」
小さく笑いかけた途端、口から赤い泡が噴き出た。赤く霞んだ視界の向こうに、タバコを咥えた黒畑の顔が浮かび上がる。
「旨そうに吸いやがって、俺にも吸わせ…」
最後まで言わずに元原の声は途切れ、手からも力が抜けた。指から離れた緑色の葉はヒラヒラと宙を舞い、血で真っ赤に染まった狙撃兵の顔の上に音も無く落ちた。
以下次号