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私ことFKRGが書いた小説(らしき物)を掲載しています。あらかじめお断りしておきますが、かなりの長編です。 初訪問の方は、カテゴリー内の”蒼い水、目次、主要登場人物”からお読み下さい。 リンクフリーです。バナーはカテゴリー内のバナー置き場にあります。 フォントの都合上、行間が詰まって読みにくいかもしれません。適当に拡大してお読み下さい。
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蒼い水 第6章 流れ行く水 3 アップします。

次の作品、全然書いてない。つ~か、書く気が起きない。


 蒼い水              作 FKRG
 
第6章      流れゆく水 3
 
信号弾の緑色の煙が空高く伸び上がって行く。その煙を見上げながら、安城は小銃のセフティーを解除した。すぐそこに神白市街地の家並みが広がっている。これからKCDの…いや神白の存亡を賭けた戦いが始まるのだ。
左手を真っ直ぐに上げ、そして勢い良く振り下ろす。それを合図に、兵士達が前進を始めた。
G中隊を中核とした兵力は二百名。秋川と鳴海が五十名ずつを率いて中央を進み、右翼を安城の五十名、左翼を大津、草加が率いる五十名が進む。
砲撃により壊乱状態になった蒼い水は、無秩序に神白市街地に潜り込んだ。だが、時間を与えれば態勢を整えて再反攻に転ずるのは間違いない。
本来なら、KCD本部と連絡を取って挟撃態勢を取るべきだろう。
だが、KCD副司令官 川村中尉こそが真の敵である以上、それは望めない。無線で呼び掛けはしたが、B中隊や親衛中隊の帰趨は定かではない。一般市民達が立ち上がるか否かも不明だ。しかし、蒼い水に再編成の時間を与えてはならない。一刻も早く市庁舎に辿りつき、島崎を救わねばならないのだ。
「さゆり、俺から離れるな」
銃を構え直した安城は、さゆりに視線を向けた。
「はい、弘一さん」
サブマシンガンを構えたさゆりが、黒目勝ちの大きな目を安城に向けて微笑んだ。だがその表情は強張っており、銃を持つ手も微かに震えている。
「やはり後方に残して置くべきだったか」
脳裏に後悔の念が一瞬よぎった。
「だが、もう遅い。戦うのみだ。さゆりと一緒に」
無言で呟いた安城は、銃口を前方に向けた。
              *
市街地南域で激しい銃撃戦が始まった。時折、爆発音が混じる。
市庁舎三階の市長室の窓際に立った川村は、咥えたタバコに火をつけようとした。だが、ライターの火は幾度試みてもつかなかった。
「ちっ!」
苛立ちも露わにタバコを投げ捨てた時、途方にくれた表情を浮かべた梨村が部屋に入ってきた。足早に川村に近づき、耳打ちする。
「大村とも浅井とも連絡が取れません。混成部隊は北川から離反して、蒼い水の掃討に向かった模様です」
「そうか…」
短く答えた川村は、ドアの横に立っていた竹田に視線を向けた。
「竹田、市庁舎に敵を入れるな」
「判りました」
「川村中尉、敵とは誰の事かね?」
竹田が退室すると、それまでイスに座ったまま沈黙を守っていた島崎が、疲れを滲ませた声で問うた。デスクに置かれた降伏受諾文書の署名欄は空白のままだ。
「…」
川村は何も答えず、窓の外に視線を戻した。
 
一階に降りた竹田は、玄関ホールを見廻して唖然とした。広いホールには、正田ひとみと数名の兵士の姿しかなかった。
「他の者はどうした? ここを守るよう、命じておいたはずだが」
「敵と…蒼い水と戦う為に出て行ったわ」
「なぜだ? そんな命令は出していないぞ」
「秋川少尉の呼びかけを聞いて、各自の判断で出て行ったの」
「なぜ、止めなかった? 説明したろう。川村中尉の考えを・・・真の目的を・・・。ひとみ、お前は俺を裏切ったのか?!」
竹田は、ひとみの肩を掴んで揺すった。
「裏切ってはいない。私は各自の判断に任せただけ。このまま蒼い水に膝を屈するのか、それとも戦うのか。…殆どの者が戦う方を選んだわ」
竹田の目を真っ直ぐに見つめて、ひとみは答えた。
「お前はどうするんだ。お前も、ここから出ていくのか?」
ひとみはゆっくりと首を振った。
「私はここに残る。あなたの傍に居る。そして島崎さんを守る。あなたは私の大切な人であり、お腹の中の子供の父親。そして、島崎さんは、私の父親同然の人なのだから」
              *
「くそっ」
安城は激しく舌打ちした。
崩れかけたブロック塀の隙間から、国道との交差点が見える。距離は三百メートルも無い。交差点を左に曲がって二百メートルも行けば市庁舎ビルだ。早足で数分ほどの僅かな距離。だが、その距離が…。
自動小銃の発射速度に比べるとやや遅めの、だがその分、腹に応える発射音が轟き、頭上のブロックが粉々に吹き飛んだ。重機関銃だ。左前方百メートル、民家の二階から撃ってくる。
銃撃が二十秒ほどで終わると、殆ど間を置かずに今度は右前方のビルの二階からやはり重機関銃の発射音が轟いた。
今度の銃撃は、道路向こうに放置された小型トラックに集中した。灰色のボディが見る内に穴だらけになり、ウィンドーガラスが粉々に砕け散る。
銃撃がやはり二十秒ほどで終わると、それまでトラックの蔭にうずくまっていた味方の兵士が銃を構えて立ち上がり、喚き声を上げながらビルに向かって撃ち始めた。何人かの兵士がそれに倣う。
「バカ! やめろ!」
安城が制止の声を上げた時、再び銃撃が始まった。今度は右と左から同時だ。着弾の土煙が路上を覆い、トラックはその煙に隠れて見えなくなった。
敵味方双方の銃撃音に混じって、甲高く、そのくせ妙に間延びした音が聞こえてきた。
「擲弾だっ! 伏せろ!」
爆発が続け様に起きた。轟音が耳をつんざき、幾つもの赤い火柱が立ち昇る。爆発音が止んだ時、辺り一面は灰白色の煙に包まれていた。銃撃音も、いつの間にか止んでいる。
安城はそろそろと体を起こした。すぐ横で、兵士が二人倒れている。一人は頭を撃ち抜かれ、もう一人は擲弾の破片で腹を裂かれていた。傷口からはみ出した腸が、生き物のようにぬらぬらと蠢いている。
「う、ぐ…」
込み上げて来る吐き気をこらえながら、周囲を見回す。煙は収まっていなかった。いや、むしろ濃くなっている。爆発炎で廃屋に火がついたのだろう、チロチロと蛇の舌のように揺れる赤い炎が煙の中で見え隠れしている。
「さゆりは? さゆりは何処だ?」
 安城は、気遣わしげな視線を道路向こうに走らせた。 
抵抗する敵を排除しつつ市庁舎を目指して前進していた安城の部隊は、前方からの銃撃を受けて道路の両側に分かれ、そのまま釘付けになってしまった。さゆりは、道路向こうのトラックの蔭に隠れたのだ。
風が吹き、束の間、煙が薄れた。よろめきながら狭い路地の奥へ入って行く小柄な人影がチラリと見えた。
「さゆり!」
愛する女を追って駆け出そうとしたその時、複数の軍靴の音が前方から聞こえて来た。
「ちっ!」
とっさにブロック塀の蔭に戻った安城は、素早く銃を構えた。
煙の中から数名の敵兵が現われた。
「死ね!」
引き金を引いた。射撃音に悲鳴と怒号が重なる。一連射で弾は無くなった。マガジンポーチを探ったが、予備のマガジンは全て空になっている。
敵の応射が始まった。コンクリートブロックの砕け散る音が耳朶を打つ。
「くそったれ!」
小銃を投げ捨てた安城は、ポウチから手榴弾を引き抜くと同時に、横っ飛びで右に転がった。転がりながら手榴弾の安全ピンを抜き、ブロック塀の向こうに放り投げる。顔を伏せた途端、鈍い爆発音が轟いた。バラバラと音を立てて大小の破片が落ちてくる。
破片の落下が収まるのを待って顔を上げた安城は、ギョッとして目をむいた。すぐ目の前に、血に染まった片腕が転がっている。
「うおー!」
背後から雄叫びが聞えた。振り向くと、小山のような巨体を持つ敵兵が、着剣した小銃を構えたまま地響きを立てて安城に迫っていた。彼我の距離は僅か数歩。拳銃を引き抜く間などない。
安城は地面に転がっていた腕を咄嗟に掴み上げ、敵兵めがけて投げつけた。腕は銃剣に突き刺さり、驚いた敵兵の手から銃が落ち、その足も止まった。
(今だっ!)
素早く立ち上がった安城は、渾身の力を込めて敵兵に体当たりした。だが、敵兵の巨体は微動だにしない。次の瞬間、グローブを丸めたような拳が安城の視界を覆った。棍棒で殴られたような衝撃に目の前が真っ暗になり、口の中に血の味が充満した。
「ぐはっ!」
よろめき倒れかけた体がふわりと浮き上がり、つま先が地面から離れた。敵兵が、その太い腕を安城の首に巻き付けて持ち上げたのだ。脂汗が全身から噴き出した。もがこうにも体が言うことを聞かない。 
脳への血流が途切れ、意識が薄れていく。
「ぐううう~」
呻き声を漏らす安城の脳裏に、死んだ家族と仲間達の顔が浮かんだ。父、母、妹の典子、桜、倉沢、遠村…。次々と浮かんでは消えていく。
…そして、玲子の顔。
安城の頬がほころんだ。幻の玲子に無言で話しかける。
「玲子、俺もそっちへ行くよ。一緒に暮らそう。俺の家族、桜や仲間達と一緒に」
だが、玲子は困惑の表情を浮かべて首を振った。
「なぜ、そんな顔をするんだ? 俺を、もう愛してないのか?」
玲子は淋しそうな微笑を浮かべた。そして何か呟いた。
「あなたは愛する人を守らなければならない。そして、その人と共に生き続けなければならない、だって? 愛する人? 愛する人って?」
そう問い掛けた時、玲子の顔は消え、代わりに十五、六才くらいの少女が現われた。
肩まで伸ばした長い髪を三つ編みにし、子供っぽいミニのワンピースを着たその少女は、頬を赤らめて安城を見上げていた。転んだのだろう、右膝に血が滲んでいる。だが、その顔にはうっすらと霞みがかかり、誰なのか判らない。
「誰だ? この少女は」
 霞みが薄れ、少女の顔が見えた。
 さゆりだった。
「さゆり? ワンピース姿など見た覚えが…いや、何処かで見た。あれは…」 
不意に情景が変わった。
五月の陽光に照らされた穏やかにうねる海と白い砂浜。安城の顔を覗き込むさゆり。黒目勝ちの大きな目、丸みのある優しそうな顔立ち、おかっぱギリギリまで刈り上げたショートヘアの前髪の何本かが、白い額に貼りついている。ほのかな甘い香りが、鼻腔をくすぐった。
甘い香り…。
山ツツジの花が発する甘い香りと、タバコから立ち昇るいがらっぽい匂いが混じり合い、二人の周りを包んでいた。守川町を見下ろす山の中腹、小さな墓の前。安城の胸に顔を押し付けたさゆりは、くぐもった声で途切れ途切れに呟いた。
「私はイヤ。好きな人に“好きです”と言えないうちに死んじゃうなんて」
嗚咽を漏らすさゆりを抱きしめた。さゆりとの初めてのくちづけ。
初めての…。
月明かりが作り出す青い闇の中での初めての夜。二人が一つになった時、ロッジの壁に掛かった時計は鐘を鳴らしかけて止まった。
止まったままの時計…。
ロッジの屋根を雨が静かに叩き、部屋は暗かった。短針が“10”を差したまま止まった時計を見つめたまま、さゆりは震える声で安城に尋ねた。
「ここへ、また来れるかしら。私達、もう一度」
「来れるさ。いや、来るんだ。俺達二人で、ここへ」
さゆりの華奢な肩を抱きしめて約束した。
約束…。
赤黒い煙を立ち昇らせて燃える神白城址を見ながら約束した。
「死ぬ時は一緒、一蓮托生だ。さゆり、俺を守ってくれ。俺も、おまえを守る」
「はい、弘一さん」
目に涙を溜めたまま、さゆりは嬉しそうに笑った。
「死ぬ時は、さゆりと一緒だ。俺は、さゆりを守る。こんな所で死んで堪るか!」
心の中で叫ぶ。体に力が戻って来た。
だらりと垂れ下がっていた左手をゆっくりと動かす。柄を下にして吊るした軍用ナイフに手が触れた。グリップを握り締め、ホックをそっと外す。それから半ば閉じていた目を大きく開き、自分を縊り殺そうとする敵兵を睨みつけた。
「…!?」
敵兵の顔に意外そうな表情が浮かび、首に掛かっていた力が僅かに弱まった。
右手をわざと大きく動かして、腰のホルスターに近づける。敵兵の視線が、その動きを追った。その隙をついて軍用ナイフを引き抜き、太い首めがけてナイフの刃先を突き立てる。
「ぎゃー!」
絶叫と共に敵兵の両腕から力が抜け、安城の体は地面に転げ落ちた。だが、すぐには動けなかった。目がぼやけ、焦点が合わない。心臓が悲鳴を上げていた。
「ごぼばぼぶっ!」
濁音だらけの怒鳴り声が耳元で聞こえ、またしても首に腕が巻き付いて来た。体が無理矢理引き起こされる。今度は、背後から抱きすくめて縊り殺そうとしているのだ。
「ぐぐうう~」
 呻き声を漏らす安城の視界の端に、敵兵の首に突き立ったままの軍用ナイフのグリップが映った。咄嗟に右手を背後に廻し、グリップを握り締める。
(死ね!)
グリップを勢い良く捻った。
「ぐぎぐげげ~!」
 濁音だらけの絶叫と共に、首に巻き付いていた腕の力が抜けた。
その腕を振り解くと同時にナイフを引き抜く。木枯らしのような音と共に、敵兵の首から血が噴水のように迸った。
 振り向いた安城の目と敵兵の目が合った。敵兵は、ニタリと笑うと白目を剥き、地響きを立てて仰向けに倒れた。暫くの間、その巨体は痙攣していたが、やがて動かなくなった。
「化け物め…」
 ゼイゼイと荒い息を吐く安城の手からナイフが滑り落ち、甲高い金属音を上げて地面に転がった。
 

以下次号
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