私ことFKRGが書いた小説(らしき物)を掲載しています。あらかじめお断りしておきますが、かなりの長編です。
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蒼い水 第6章 流れ行く水 2 アップします。
更新するのすっかり忘れてた。
管理人からも忘れらてるサイトって、いったい…。
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蒼い水 作 FKRG
第6章 流れゆく水 2
大村は、右手を頭の高さまで上げた。“攻撃用意”の合図だ。散開した兵士達が一斉に身構え、緊張した空気が辺りを包み込む。
だが、大村の頬は僅かだが緩んでいた。
(敵は、川村さんの命令で既に後退している。一部のハネカエリが命令に背き抵抗するかもしれないが、仮に抵抗したとしても、こちらの兵力は七百。焼け石に水だ。一時間も経たない内に、俺たちは市庁舎を包囲するだろう。そして、神白市長兼KCD司令官 島崎順一の名で白旗が掲げられる。住民達が真相に気づいた頃には、軍政両権を手中にした川村中尉がキングとして神白市に君臨している。…そう、勝敗は既に確定しているのだ。これから始まる攻撃は、単なるセレモニーに過ぎない。川村王国誕生の、な)
「砲撃開始!」
怒鳴ると同時に右手を振り下ろす。
数秒の間を置いて、やや迫力に欠ける迫撃砲の発射音が後方…旧神白町から轟いた。真っ黒な砲弾が、口笛のような甲高い音を立てながら、市街地の家並みめがけて落下していく。
弾種は榴弾。ナパームではない。これから支配下に置く街を燃やしてしまっては元も子もないからだ。この砲撃は、神白の住民達に新しい支配者の誕生を知らせる為の、言わば号砲のようなものなのだから…。
着弾した。家並みのあちこちで、爆発音と灰白色の煙が立ち昇る。
続いて第二斉射、第三斉射…。数十発の迫撃砲弾が、市街地に撃ち込まれた。煙が収まるまで待ったが、一発の応射も無い。
「前進! 抵抗する者は容赦なく殺せ。降伏する者は…。相応に扱ってやれ」
大村は、街に向かってゆっくりと歩き出した。銃を構えた七百の兵もそれに続く。
先頭部隊が市街地の南端に取り付いた時、迫撃砲の発射音が再び聞こえてきた。
「何をとぼけた事をしている。もう砲撃する必要は無いと言うのに…」
舌打ちして振り向いた大村は息を呑んだ。数発の迫撃砲弾が、なだらかな曲線を描きながら、こちらに向かって落下して来ていたからだ。甲高い落下音が悪魔の吹く口笛に聞こえた。
「伏せろ!」
怒鳴り声を上げて地面に突っ伏す。柔らかく湿った土に、顔がめり込んだ。
爆発音が収まると、大村は泥だらけになった顔を上げた。三十メートルほど先の地面が白煙に覆われていた。苦しげな悲鳴が、その煙の中から聞こえてくる。
「通信兵! 迫撃砲隊を呼び出せ」
大声で命じた時、再び口笛が聞えた。また顔を伏せる。今度はすぐ目の前で火柱が立った。何人かの兵士が、絶叫を上げて吹き飛ぶ。
「迫撃砲隊、出ました」
通信兵が、泥だらけのハンドセットを突き出した。
「何を寝ぼけている! 砲撃を中止しろ! 味方を殺しているぞ!」
もぎ取る様にして受け取ったハンドセットに向かって、大村は怒鳴り声を上げた。
「味方? そりゃ、変だな。俺は、敵を殺している積りなんだが…。蒼い水とか名乗るクソ野郎どもを、な」
受話口から、揶揄するような声が流れた。
「キ、キサマ! 何者だ!」
大村は、ハンドセットを持ったまま後方…旧神白町に視線を走らせた。
「KCD、と言いたいが、実の所、俺は助っ人だ。それより次を撃つぜ。砲撃が終わってもまだアンタが生きてたら、俺の名前を教えてやるよ」
大村の手からハンドセットが滑り落ちた。その視線は、自分めがけて飛来してくる迫撃砲弾に釘付けになっていた。
口笛が聞えた。悪魔の口笛ではない。死神の口笛だ。
*
砲撃が終わった時、神白市街地と旧神白町の間に広がる水田地帯は灰白色の煙に覆われていた。
「もしもし、生きてるか?」
草加は、手に持ったハンドセットの送話口に向かって、楽しそうに話しかけた。受話口からは、ザーザーというノイズ以外、何も聞えない。
「どうやら死んだらしい。まあ、自分達の砲弾で死んだんだ。自業自得という奴だな」
「自業自得と言うのか? こういう場合」
双眼鏡を覗いていた大津が、笑いながら交ぜ返した。
「草加さん、大津さん。砲弾は撃ち尽くしました。もう一発も残っていません」
すらりとした体つきの若い女性兵士が、二人の傍に駆け寄って来て報告した。
「わかった。進撃の準備をしろ。これからが正念場だ。油断するな」
「ハイ、直ちに進撃準備に入ります」
女性兵士は、畏敬の眼差しで二人を見つめながら、歯切れの良い声で復唱した。
大津と草加は、秋川から委ねられた一個小隊ほどの兵を率いて、旧神白町北縁に展開する蒼い水迫撃砲部隊を急襲した。だが、実際に戦ったのは大津と草加の二人だけだった。
「山篭りが長くてな。フラストレーションが溜まってる。奴らは俺達だけで片付ける。ま、十分もかかるまい。その間、キミ達は見学してろ」
半信半疑…いや、ほぼ全疑の兵士たちを待機させると、大津と草加は迫撃砲部隊に襲い掛かった。そして宣言した通り、十分足らずで片付けてしまった。砲撃に夢中になり後方の警戒を怠っていたとは言え、五十名近い兵士をたった二人で、しかも軍用ナイフと小火器だけで…。
迫撃砲部隊を壊滅させた大津と草加は、唖然としている小隊隊員達に対して、鹵獲した迫撃砲の照準調整を的確に指示した。そして、残っていた迫撃砲弾全てを、神白市街地に突入しようとしていた敵めがけて撃ち込ませたのだ。
大津と草加の指揮下に入る事を秋川から命令された時、不安と不信の表情を露わにしていた兵士達だったが、今は二人に全面的な信頼と敬意を寄せているのだった。
「お、おい。キミ」
仲間の方へ駈け戻ろうとする女性兵士に、草加が慌てて声を掛けた。
「はい?」
女性兵士は、訝しげな表情を浮かべて立ち止まった。
「まだ名前を聞いてなかったな。キミの名は、なんという?」
「村尾静香初級兵です」
「村尾初級兵か…。改めて、よろしくな」
草加は、微笑みながら右手を差し出した。
「は、はい。こちらこそ、よろしく」
はにかみながら、村尾も右手を差し出す。その手を、草加は柔らかく握り締めた。
「お、俺も、よろし…グッ!」
同じように握手をしようと手を差し出した大津のやや太めの腹に、草加の左肘がめり込んだ。
「村尾初級兵、一言、忠告しとくよ。大津の野郎は凄い脂性だ。握手なんかしようものなら、手がベトベトになるからやめといた方が良い。…さあ、急いで進撃準備にかかってくれ」
うずくまって苦悶する大津を横目に、草加はしろっとした顔で言った。唖然とした表情を浮かべていた村尾だったが、すぐに吹き出しそうな顔になった。
「はい、判りました」
再び敬礼すると、村尾はクルリと背を向けて仲間の方へ走り出した。肩が震えているのは、笑っている所為に違いない。
「う~ん、静香ちゃんかあ。可愛いねぇ~。小川さゆりちゃんといい、神白には美人が多いな。水が良いからかな~」
鼻の下を伸ばしながら、草加は上機嫌で呟いた。
「な~にが、静香ちゃんだ。この卑怯者」
咳き込みながら立ち上がった大津が、目を三角にして草加を睨みつける。
「卑怯者? 先手必勝は戦術の基本だぜ。士官学校で習わなかったのか?」
「戦術? 人を脂性呼ばわりするのも戦術かい?」
「いいや。しかし、俺は事実を有りのままに述べたまでだ」
「じゃあ、俺も、事実を有りのままに静香ちゃんに言ってやろう。草加は凄い水虫野郎です。握手するだけで伝染りますよ、って」
「あのなあ。大津」
「何だよう。草加」
睨み合う二人の足元に転がったトランシーバーから、苛立ちを帯びた声が流れ出した。
「大津、草加、応答しろ。進撃準備は整ったのか? オーバー」
「いけねえ、鳴海さんだ。怒ってるぜ」
「おまえが、いい年こいて若い娘相手にヤニ下がってるからだ」
「うるさい。いい年は、お互いさまだろうが」
二人の言い争いを眺めていた村尾静香は、呆れ顔で肩をすくめた。
「カッコイイなと思ったけど。あの二人、まるで子供ね。がっかりだわ」
*
KCD各部隊が保有する無線機のスピーカーから、太い声が流れ出てきた。
「神白の仲間たち、聞いてるか? G中隊の秋川だ。遅れ馳せながら戻って来た。安城も一緒にいる。今の砲撃の音が聞こえたろう。あれは、俺たちが撃った砲弾だ。敵は…蒼い水は壊乱状態だ。奴らはバラバラに街の中に潜り込んだ。銃に弾を込めろ! 今から信号弾を上げる。それを合図にして神白から…俺達の街からバンディッツのクソ野郎共を一人残らず叩き出すんだ!」
数瞬の間を置いて、市街地の南に広がる水田地帯から緑色の煙が空高く伸び上がった。
秋川の声と信号弾の煙は、神白の街を愛する人々に勇気と希望を与え、それ以外の者には不安と失望を与えた。
緑色の煙が空高く伸び上がって行く。
本部の命令に従って市街地中心部まで後退していた混成部隊の隊員たちの間から、明るいどよめきが起こった。
「G中隊が帰って来た!」
「安城少尉もいる。って、言ってたわよね!?」
「G中隊に呼応して敵を叩き潰そう。俺達の手で街を守るんだ!」
「バカ野郎! お前ら、本部の命令を忘れたのか?!」
歓声を上げて駆け出しかけた彼らの足は、B中隊中隊長 北川治少尉の怒号で止まった。
「敵との交戦を避け後退する。これは本部の・・・川村副司令官直々の命令だ。従わない者は、抗命罪と見なして射殺する」
「…」
重苦しい沈黙がその場を覆った。だが、その沈黙はすぐに、若い女の声で破られた。
「射殺できるものなら、やって見なさいよ。この腰抜け!」
「なにぃ!?」
北川の険しい視線が、声の主…大月良子上級兵に向けられた。
「もう一度言ってみろ。大月!」
「何度でも言ってやるわよ。この腰抜け野郎! そんなに命が惜しいなら、あんただけ逃げれば良い。私は逃げたりなんかしない。本部命令なんかクソ食らえよ!」
良子は、北川の顔を真正面から睨みつけたまま言い放った。
「キサマ!」
血相を変えた北川は、腰のホルスターに手を伸ばした。だが、その手は途中で止まった。彼ら二人を取り巻いた人々の視線に気付いたからだ。その視線は、北川に対する非難と不信感に満ちていた。
「なんだ、おまえ達。それが上官に対する・・・いや本部命令に対する態度か?」
「命令? 俺達の街を占領しようとするバンディッツに道を開けてやれ、などと言う命令には、これ以上従えない」
「そうだ、そうだ」
「そんな命令には従えない」
ひとしきり、抗議の声が湧き起こった。
「黙れっ! 命令は命令だ。例え納得のいかない命令でも、それを守る。それが軍人としての…」
北川の怒声を、またも良子の声が遮った。
「なるほど、アンタは立派な軍人よ。上からの命令なら、それがどんなに理不尽な命令でも自分の良心を押し殺して従う、と言う点でね。でも軍人って一体、何の為に存在するの? 戦争が始まった時、政府や防衛軍のお偉いさん達は私達に言ったわ。“お前達の国を守る為に、お前達の街を守る為に、お前達の家族を守る為に、我々は戦っている。だから戦争が終わるまでは、我々の命令に従え”と…。でも、その結果はどうなったの? 決着のつかない戦争をズルズルと続けた挙句に、国も街も家族も何もかも失ってしまった。私達に残されたのは、この神白の街と二万人の仲間だけ。その街と仲間さえもバンディッツに渡せと言うの? 冗談じゃないっ! 命令なんてクソ食らえよっ! 私達は…少なくとも私は軍人じゃない。戦闘服を着て武器を持っていても軍人じゃない。私は、自分の街と仲間を守る為にKCDに入った。私は、蒼い水に殺された婚約者の仇を討つためにここに居る。だから、私は行くわ。本部の命令に背いて、蒼い水のクソ野郎どもを殺すために、ね。私を撃ちたければ撃てば良い。私を撃てば、アンタは正真正銘の立派な軍人よ。人間としては失格だけどね!」
「く、う…」
北川は、何も言い返せなかった。
クルリと背を向けた良子は、大股で歩き出した。そして混成部隊の隊員達も、北川をその場に残したまま彼女の後について行った。
「何の為に存在するのか? か…」
一人残された北川は、視線を足元に落とした。そして、いつまでも立ち尽くしていた。
以下次号
以下次号
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