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私ことFKRGが書いた小説(らしき物)を掲載しています。あらかじめお断りしておきますが、かなりの長編です。 初訪問の方は、カテゴリー内の”蒼い水、目次、主要登場人物”からお読み下さい。 リンクフリーです。バナーはカテゴリー内のバナー置き場にあります。 フォントの都合上、行間が詰まって読みにくいかもしれません。適当に拡大してお読み下さい。
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蒼い水 第5章 激闘 7 アップします。

暑い日が続いております。
午後も4時を過ぎると、私の頭の中は”ビールを飲んでいる自分の姿”に、半分くらい占拠されています。
午後6時になると占拠率は90パーセントを超えており、この時点で”もっと仕事しろ”と言われると、確実に逆上します。

  蒼い水              作 FKRG
 
第5章      激闘 7
 
神白城址を形成する二つの丘は紅蓮の炎に包み込まれていた。燃え盛る炎の中で、生きている者も、既に死んでいる者も焼き尽くされていく。生きながら焼かれる兵士の断末魔の絶叫は轟々たる炎の音に掻き消され、叫んでいる本人すら聞くことは出来なかった。
「綺麗だわ」
神白川西岸の堤防上に一人たたずんだ村辻香織は、その光景をうっとりと眺めていた。
休戦時間が終了すると、郷原の率いる第一突撃隊は城址北方に移動した。如月が直卒する本隊と湖東の第二突撃隊が本丸跡の資料館を占領すると同時に、神白市街地に突入する為だ。
少数の護衛兵と共に西ノ丸跡に残っていた香織は、皆の関心が資料館の戦闘に集中し始めた頃合を見計らって、密かに丘を駆け下りた。誰も、香織が居なくなった事には気付かなかった。仮に気付いた者がいたとしても、いつもの気まぐれとして注意を引く事もなかっただろう。
「うん?」
炎が発する光とは違う光を頬に感じた香織は、視線を右に…東に向けた。
神白川の東岸に沿って連なる山々の稜線が、夜明けの光を浴びて白く輝いていた。夜の闇は徐々に西方に追いやられ、満天に瞬いていた星の光も薄れていく。
「そろそろ退散しようかしら…」
 目を細めて呟いてから、再び城址に視線を戻す。男が一人、こちらに近づいて来るのが見えた。
「あら、生き残りがいたみたいねえ」
小銃を杖代わりにしてよろめきながら近づいて来るその男は、渋沢鼎だった。足元ばかり見ていて、香織には気付いていないようだ。
いつもきちんと横分けにしていた頭髪は焦げ茶色に縮れ、顔は火脹れと煤で赤黒く汚れている。戦闘服も焦げ目と破れ目だらけだ。
「あらあら、優男が台無しね」
香織は、嘲るような笑い声を上げた。
渋沢の足が止まった。腫れた瞼を精一杯開き、驚きの表情で香織を見つめる。
「おまえ、生きていたのか?」
煙を吸い込んで喉を痛めたのだろう、声がひどくしゃがれている。
「幽霊に遭ったような顔をしないでよ。ちゃんと足はあるわ。ほらっ」
すらりと伸びた脚を軽く叩いて見せる。
「なぜ、ここに居る? なぜ、生きている?」
「アナタと同じよ。知っていたの。神白城址の守備隊長が何を持っているのか」
驚きから疑惑へと表情を変えた渋沢の質問に、香織は嘲りを含んだ声で答えた。
「城址の地下が旧防衛軍の燃料備蓄庫になっている事は公然の秘密。誰でも知っている。長距離弾道弾の直撃を受けてもびくともしない堅牢さを持ち、何重もの安全装置を施した地下タンク。だから、如月も安心して攻撃した。もっとも、守備隊長が何を持っているか知っていたら、さすがのゴリラ男も避けて通ったでしょうにね」
「なぜだ? なぜ知っている。守備隊長が備蓄庫の自爆装置を起動するリモコンを持っている事を…。あれは…」
「防衛軍が存在していた頃には、軍上層部と守備隊長しか知らなかった軍事機密。そして現在は、KCD幹部しか知らないトップシークレット。自分以外の蒼い水のメンバーは誰も知っていないはずなのに、なぜ、おまえは知っている? そう言いたいんでしょう?」
「そうだ」
 と言う代わりに、渋沢は香織を睨み付けた。
「簡単なことよ。旧防衛軍が保有していたダブルA程度の情報…地方軍に関する軍事機密とか防衛軍将校の個人情報くらいなら、幾らでも知る事が出来た。私はそういう立場に居たの」
「幾らでも? それは、どういう…」
「私は、防衛軍総司令部付き内務監察部特殊工作第三課のメンバーだったの。防衛軍参謀だったアナタなら知ってるでしょ?」
「特殊工作第三課? スパイか…」
「スパイ? スパイねぇ。何だか軽そうな呼び方ね。できれば、諜報員と呼んで欲しいわね」
香織は、艶然と微笑んだ。
「なぜだ? それを知ってて、おまえは、なぜ如月自らが陣頭に立つことに賛成した」
「また、“なぜ”? やたら質問ばかりしてないで、少しは自分でも考えたら? アナタの取り柄は、その優秀な頭脳でしょう」
「…」
数秒間の沈黙の後、渋沢は口を開いた。
「如月と俺が死ねば、蒼い水を支配する事ができる。そう考えたんだろう。女狐め!」
語尾は悲鳴に近かった。
「やれやれ、その程度なの? がっかりねえ。的外れも良いとこ…」
失望の溜息を漏らした香織は、打って変わった真剣な口調で喋り出した。
「私は、自分が権力者になろうなんて、これっぽっちも思っていない。権力を得た者が、結局はその権力に振りまわされて滅んでいくのを、散々、目の当たりにしてきたから…。この国の指導者達、そして防衛軍のお偉いさん達のようにね。私の見るところ、如月の能力は群小のバンディッツ集団を纏め上げるのが精一杯だった。首尾良く神白を手に入れたとしても、維持し続けるのは到底不可能。いずれは誰かに殺されたでしょうね。例えば黒畑、浅井、大村…。それともアナタ? 或いは川村中尉? アナタは参謀として如月を操り、この北陽地方に割拠していたバンディッツ集団を蒼い水の元に統合した。その蒼い水を使って神白を攻略した後、その戦力をそのまま川村に差し出す積りだったんでしょう? 無論、如月は抜きでね」
渋沢の表情が強張った。
「なぜ、それを…」
「さっきも言ったでしょう。“防衛軍将校の個人情報を知る事が出来た”と…。アナタや黒畑、大村、浅井が川村中尉に私淑し、絶対的な忠誠を誓っていた事くらい知っていたわ」
渋沢の手が腰のホルスターに少しずつ這い寄って行くのを視界の端に捉えながら、香織は言葉を続けた。
「でも、アナタの…いえ、おそらくは川村中尉の構想を元にしてアナタが立てた計画は、ここまで来て大きく綻び始めた。倉沢の挑発に乗った如月は、アナタの制止を聞かずに城址を攻め、多大な損害を蒙った。これ以上、如月の好きなようにさせたら、蒼い水もKCDも共倒れになってしまう。それを避ける為に、アナタは如月をそそのかして陣頭に立たせ、KCDに殺させようとした。でも、それより、アナタが背中から撃った方が確実でしょ? そう思って、アナタも戦闘に参加するよう口添えしてあげたのよ。どう、親切でしょ? アナタの最大の誤算は、守備隊長の真宮があっさり自爆装置を起動してしまったこと。誰もが自分の命を惜しむだろうと思い込んでいたアナタの計算違いね。私は念の為に、ここまで逃げていたのよ」
「言うことはそれだけか、この女狐め。俺の最大の誤算は、おまえを今まで生かしておいたことだ!」
渋沢は拳銃を引き抜いた。だが、銃口を上げぬうちに乾いた銃声が響き、抜いたばかりの拳銃はガチャリと音を立ててヒビだらけの路面に落ちた。
「な!?」
血に染まった右肩を左手で抑えながら、渋沢は苦悶と驚愕がない混ぜになった目で香織を睨み付けた。
「言ったでしょ? 私は諜報員だったって…。射撃の腕前は、そこらの兵士のレベルを遥かに超えてるのよ」
香織の右手には、銃口から薄煙を上げる小型拳銃が握られていた。
「ま、待て! なぜ、おまえは、如月を死地に追いやるような真似をした? おまえは如月の…」
銃声が再び響き、その後に続く筈だった言葉を吹き飛ばした。
額の真中に銃弾を受けた渋沢は、まだ何か言いたげな表情を浮かべたまま仰向けに倒れた。
流れ出た血が、地面に赤い池を作り出していく。渋沢の両目は明けていく空を睨みつけていたが、その脳は既に目に映るものを認識する力を失っていた。
「エリートね。ただし、人の心の中が解らないエリート。…アンタみたいな人間が、この国をこんな風にしたのよ」
吐き捨てるように呟いた香織の頬は、涙に濡れていた。
涙は、如月の為に流しているのではない。半年ほど前、蒼い水と戦い敗北し殺された男…香織が本当に愛した男の為に流しているのだった。
 
WW3末期、防衛軍首脳部の命令により、香織は何人かの同僚と共に神白に潜入した。川村を監視し、その動向を逐一報告する事。そして、命令があり次第、速やかに川村を暗殺する事。それが香織達に与えられた任務だった。
「クーデターに加担したとは言え、一参謀に過ぎなかった川村の動向になぜそこまで神経質になるのか?」
 という疑念が浮かびはしたが、それは口にしなかった。諜報員とは言え軍人に変わりは無い。“上官の命令は絶対”・・・そう叩き込まれていたからだ。
 同僚の一人が、ある時ボソリと言った。
「これは噂だが。川村には、防衛軍のトリプルA以上の極秘情報を盗み出した嫌疑があるらしい。それが、どんな情報かはわからないがな」
その噂が本当なのか、本当であるのならどんな情報を盗み出したのか…。確認する術はなかった。
戦争終結の直前、指令が届いた。“川村を暗殺しろ”と…。
だが、香織はその命令を拒否した。
「私は行かない。川村が盗み出した極秘情報が何かは知らないけれど、今更、彼を殺して何がどう変わるの? 戦争はもうすぐ終わる。防衛軍はもとより国家も消滅するでしょう。くだらない忠誠心より、自分の命を大切にした方が良いんじゃないの?」
 だが、同僚たちは川村暗殺に赴いた。そして、誰一人帰って来なかった。
やがて戦争は終わり、防衛軍も国家も消滅した。神白を出て北陽地方をさまよっていた香織は、同じ様に放浪していた防衛軍兵士のグループに加わった。
グループのリーダーの名は橘耕一。三十代前半の、精悍で理知的な雰囲気を漂わす男だった。各地を転々とする日々の中で、香織と橘は深く愛し合うようになった。
「俺と俺の仲間たちは五年間戦ってきた。その間、多くの人間を殺した。今更、まともな暮らしはできない。死ぬまで、いや、誰かに殺されるまで勝手気ままに暮らす積もりだった。…だが、おまえと出会って気が変わったよ」
二人が定住者として平和に暮らす決心をしたその矢先、蒼い水がグループを急襲した。最後まで抵抗した橘は、香織の目の前で殺された。如月自らの手で…。
あれから半年、愛した男を殺した如月に抱かれながら、香織は復讐の機会を待っていた。如月を殺すだけなら、諜報員として身につけた暗殺技術を持ってすれば難しい事ではない。だが、それだけでは気が済まなかった。蒼い水もろとも如月をこの世から消してこそ、復讐は終わるのだ。
そして今、復讐は終わった。
総帥と参謀、そして主力部隊の大半を失った蒼い水は、今や烏合の衆に他ならない。仮に、誰かが残りの兵力をまとめて市街地に侵入したとしても、せいぜいKCDと相討ちに終わるのが関の山だ。
自らの手で如月を殺すことが出来なかったのが心に残る。だが、愛していなかったとは言え、半年近く肌を合わせ続けた男を直接殺せたかどうか…。実の所、香織には自信が無かった。
「まあ、いいわ。終わったのだから」
心は空虚さで占められていた。KCD、神白、そして川村がどうなろうと、最早、何の関心も無い。
「何処へ行こうかしら…。南? 西? それとも東?」
低いエンジン音が背後から聞こえてきた。振り向くと、ヘッドライトを煌かせた車列が近づいて来るのが見えた。
「G中隊か…。蒼い水の息の根を止める為に来たのね」
皮肉っぽく微笑んだ香織は、県道沿いの草むらに姿を消した。
路上には、渋沢鼎の死体だけが残された。物言わぬ骸の上を、油臭い風が吹き過ぎて行く。
           *
「みんな、死んだのね」
華奢な肩を震わせながら、さゆりが呟いた。涙で濡れたその目は、黒煙を上げて燃え続ける神白城址を見つめている。
「…」
傍らに立った安城は、押し黙ったまま道路脇の草むらに視線を移した。
そこには、服部によって殺されたKCD兵士の死体が並べられていた。倉沢と鳥越みゆきの骸も、その中に横たわっている。
 
荒れ野の中に残った農道を伝い、炎上する神白城址を迂回して南鳥井橋の袂に出た安城たちが、路上に倒れた仲間達を発見した時、倉沢はまだ生きていた。
鳥越みゆきに覆い被さるようにして倒れていた倉沢は、安城に抱え起こされて薄く目を開けた。
「真宮の奴、やっちまいやがった。…済まんな、安城。遠村も死なせてしまったようだ。済まん」
「何を言うんだ、倉沢さん。最善を尽くしたんでしょう? 謝る事なんて無い」
「安城、頼みがある」
「頼み?」
倉沢は、愛する女の顔にチラリと視線を向けた。そして、照れ臭そうに微笑んだ。
「あいつと…みゆきと一緒に埋めてくれ。俺達、“あっち”で一緒に…なる」
言い終えて、倉沢は目を閉じた。
 
「倉沢少尉を死地に追いやったのは、俺達のお節介の所為だったかもしれないな。“C中隊情報”をもたらしたのは、俺達なんだから…」
鳴海が済まなそうに言った。大津と草加も頭を垂れている。
「そんな事はありません。“C中隊情報”が有ろうが無かろうが、倉沢さんは同じ事をしていたに違いありません。あの人は、そんな人だった」
力の無い声で安城が答えた時、秋川が大股で歩み寄ってきた。左腕を三角巾で吊った吉野晴美と数名の小隊長が、その後ろに従っている。   
「安城、これからどうする? 生き残っていた者の話によれば、四百名近い敵兵が、橋を渡って市街地に向かったそうだ。グズグズしていると川村中尉が行動を起こす。そうなれば、島崎さんの身が危ない」
うな垂れていた安城の脳裏に、神白に住む人々を心底愛して止まない島崎の顔が浮かんだ。そして、死んで行った多くの仲間達の顔がそれに重なった。桜、市木、倉沢、真宮、楠木、遠村、鳥越…。
安城は顔を上げた。まなじりを決し、自分の周りに集まった仲間達の顔を見まわす。
「多くの仲間達が神白を守る為に死んだ。彼らの死を無駄にすることは出来ない。バンディッツを叩き潰し、神白の街と住民を、そして島崎さんを救うんだ!」
「うおー!」
安城の声に、その場に居た全員が唱和した。勿論、さゆりも…。
 
「さゆり、おまえはここで待っていてくれ」
エンジン音と軍靴の音が錯綜する中、安城はさゆりの両肩に手を置いてささやいた。
「なぜ?」
さゆりは、食い入るような目で安城を見つめた。
「行けば、死ぬかもしれない。おまえを死なせたくない。ここに残って待っていてくれ」
「嫌です! 私は中隊長付きの護衛兵。弘一さんを、いえ、安城少尉を守ります。何処までもついて行きます。倉沢少尉にも頼まれました。“しっかり護衛してやってくれ”と…」
安城の手を振り解いたさゆりは、ジープに向かって駆け出した。
「…」
呆然と立ち尽くす安城の肩を誰かが叩いた。振り向くと、吉野晴美が立っていた。
「安城少尉、さゆりを連れて行ってやって。もし、あなたが死んだら、さゆりはきっとあなたの後を追うわ。さゆりはそんな娘なの。一緒に行って、一緒に戦うのよ。…私? 私は秋川と一緒に戦う。秋川は、あなたとは逆に私について来て呉れとせがんでるのよ。死ぬ時は一緒、一蓮托生というやつね」
言うだけ言った晴美は、安城の答えも聞かずに秋川が乗ったジープに向かって駆け出した。
「本当に…面倒見の良い人だ」
ポツリと呟いた安城の横にジープが止まった。低いエンジン音を轟かせるジープの後部座席には、さゆりが座っていた。涙を溜めた目で、安城を見つめている。
「ふっ」
苦笑した安城は、勢い良くジープに飛び乗った。後部座席…さゆりの隣に腰を下ろす。
「死ぬ時は一緒、一蓮托生だ。さゆり、俺を守ってくれ。俺も、おまえを守る」
「はい、弘一さん」
 嬉しげにさゆりは応え、白く細い指で目元を拭った。
ジープが動き出した。幌を畳んだ車上を風が吹き抜けて行く。さゆりの目に浮かんでいた涙の粒はその風に乗って飛び、寄り添う様に横たわる倉沢と鳥越みゆきの上に落ち、そして消えた。

以下次号
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