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私ことFKRGが書いた小説(らしき物)を掲載しています。あらかじめお断りしておきますが、かなりの長編です。 初訪問の方は、カテゴリー内の”蒼い水、目次、主要登場人物”からお読み下さい。 リンクフリーです。バナーはカテゴリー内のバナー置き場にあります。 フォントの都合上、行間が詰まって読みにくいかもしれません。適当に拡大してお読み下さい。
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蒼い水 第5章 激闘 5 アップします。

めざせアクセス数1000。・・・てか。
やれやれ。

蒼い水              作 FKRG

 

第5章 激闘 5

 

「総帥。神白城址守備隊長が一時休戦を申し込んできました。どう致しましょう?」

マイクを握り締めた通信兵が、恐る恐る振り向いた。

「神白城址守備隊長? 俺に向かって大見得を切った倉沢とかいう野郎か?」

如月の目は、怒りに燃えていた。

「いえ、真宮誠治と名乗っています」

「寄越せ!」

通信兵の手からマイクをひったくった如月は、吠えると表現するのが相応しい勢いで怒鳴り散らした。 

「如月だ。いまさら休戦だと!? ふざけた事をヌカすな!」

送話スイッチを切ると、間髪を入れずにスピーカーから落ちついた声が流れ出た。

「如月総帥閣下。直接お話できて光栄に思う。本官は、神白城址守備隊長代理 真宮誠治少尉。本官は、閣下と閣下の部下の勇猛さに敬意すら感じている。勇敢な敵と戦う事は、軍人として誉れに思うところだ。オーバー」

「総帥閣下。敬意か…」

毒気を抜かれた顔つきで、如月はマイクを口に近づけた。

「いいだろう。話だけは聞いてやる。さっさと、言いたい事を言え」

「総帥閣下の度量の広さに感謝する。それでは、本題に入らせて頂く。守備隊長の倉沢は、貴軍の装甲車と刺し違えて瀕死の重傷を負った。その他にも、負傷して戦闘能力を失った者が多数いる。そしてそれは、貴軍においても同様と思う。古来より、負傷者を後送するために戦闘を休止した例が余多あることは、閣下も御存知だろう。そこで本官は、しばしの休戦時間を設ける事を提案する。閣下の御慈悲と叡慮に期待する。オーバー」

真宮の声は消え、スピーカーから流れ出る音は微かなノイズだけになった。

「閣下の御慈悲と叡慮に期待する、か…」

如月は、ウットリした表情を浮かべながら、マイクを通信兵に返した。

 

「休戦を受け入れますかね? 如月とかいう男、声を聞く限りでは紳士的な奴だとはとても思えませんが」

遠村が、不安気な視線を真宮に向けた。

「オマエが言う通りだ。紳士的な奴には思えん。恐らく、粗暴が人間の形になったような男だろう。だが同時に、単純な性格でもあるに違いない。こちらがへりくだった態度を取って優越感を刺激してやれば、負傷者を後送する為の一時休戦くらい受け入れるさ」

 などと、長々と言葉を並べる真宮ではなかった。自信ありげに微笑んで見せただけだった。

 だが、その笑顔は数秒も続かなかった。すぐにいつもの無愛想な表情に戻った真宮は、担架に横たわった倉沢に視線を向けた。

倉沢は意識を失っていた。指揮権を真宮に委譲したことによって、それまで張り詰めていた気力が緩んだ所為もあるが、大量の出血による体力の損耗がその最大の要因だという事は否めない。

応急処置が功を奏して出血は止まっているものの、吐く息は荒く、熱も出ている。ここでは、これ以上の手当ては望めない。市街地の医療施設に一刻も早く後送し治療を施さねば、生命を失う可能性が大だ。

「とにかく、打てるだけの手は打った。後は、あちらさん次第さ」

 とは言わずに真宮が腕時計を覗き込んだ時、扉が静かに開き、水を入れたバケツを持った鳥越みゆきが部屋に入ってきた。その顔色は、重傷を負った倉沢に負けぬほどに青白い。

真宮と遠村には目も呉れずに倉沢の傍に歩み寄ったみゆきは、倉沢の汗ばんだ額に手を当て、深い溜息を漏らした。

バケツの水に浸してあったタオルを取り出し、絞ろうとする。が、左手だけで絞れる筈も無い。

「んもう」

苛立たしげにかぶりを振ったみゆきは、負傷した右腕を吊っている三角巾を乱暴に毟り取った。両手でタオルを掴み、力を込めて絞り上げる。右腕に巻き付けた包帯の表面に、ジワリと血が滲み出た。

「鳥越准尉、そんな無茶をしたら…」

遠村が制止の声を上げた。

「いいの、私の好きにさせて。今の私が倉沢少尉に…寛治さんにしてあげられる事は、これくらいしか…」

沈んだ声で答えながら、倉沢の体を丁寧に拭っていく。一通り拭うとタオルを水に浸して洗い、絞ってまた拭う。すぐにバケツの水は汚れ、生温くなった。

「待ってて、水を取り替えて来る」

無論、意識を失っている倉沢が返事をするはずもない。みゆきは、気の毒なほどに沈痛な表情を浮かべたまま部屋を出て行った。

「もし倉沢が死んだら、鳥越のことだ、何をやりだすか判ったもんじゃない。戦死覚悟で敵に向かって突撃するか…。いや、あの様子じゃ、後を追って自殺するかもしれん」

と言う代わりに真宮と遠村が同時に太い溜息を漏らしたその時、無線機のスピーカーから声が流れ出た。

「こちらは蒼い水だ。神白城址守備隊長、応答せよ」

            *

星明りに照らされた県道を、三十名ほどの隊列がゆっくりと進んで行く。休戦協定に基づいて市街地に後退するKCDの負傷兵の列だ。その半数は急造のストレッチャーに横たわっており、歩いている者も例外なく負傷していた。武器を持っている者は一人もいない。

西ノ丸跡の丘の上からその隊列を見下ろしていた渋沢は、不満気な表情を隠そうともせずに、隣に立つ如月の顔を覗き込んだ。

「総帥、良いのですか? 奴ら、街に戻ったら、我々にまた銃を向けますぞ」

「多分な。だが、それだけの事だ。奴らが戦線に復帰したところで、焼け石に水だ。俺達が勝利を収める邪魔にはならない。だが、あの真宮とかいう奴のセリフではないが、俺にも慈悲の心が有るという所を神白の街の連中に示しておいた方が、今後の為にも良かろう? なにしろ今日の内にも、俺は奴らのキングになるんだからな」

鷹揚な口調で、如月は答えた。

「はあ、まあ」

曖昧に頷いた渋沢だったが、その心の中では怒りと焦燥が渦を巻いていた。

神白城址は一部の兵で牽制しておき、主力部隊の大半を以って市街地に侵入し、進退窮まった島崎市長に降伏を迫る。それが本来の計画だった。

だが、現状はどうだ?

倉沢の挑発に見事に乗せられた如月の命令で、主力部隊の総力を挙げて城址を攻撃する羽目になってしまった。そして四百名近い兵を失った挙句に、未だこの草茫々の丘に釘付けになっている。その上、今度は真宮の口車にまんまと載せられて、負傷者後送の為の休戦協定まで結んでしまっているのだ。

(幾ら悔やんでも失った兵と時間は返って来ない。城址に残る敵の兵力は二百にも満たない筈だ。対してこちらは千を超えている。こうなれば一気に城址を落とし、その余勢を駆って市街地に突入するのだ。そして、今日の午後には神白の主は代わっている。勿論、このゴリラ野郎ではない。あの人…川村中尉が神白の新たな市長に…。いやキングになるのだ。その為にも、そろそろこの戦うことしか能の無いゴリラ野郎を片付ける算段をしなければ・・・) 

渋沢の顔に、狡猾な笑いが浮かんだ。

(そう、そうだった。コイツは、戦う事がメシより好きな男だった)

唇を舌で湿らせた渋沢は、軽く咳払いしてから口を開いた。

「総帥、慈悲の有る所を知らしめたのですから、次は勇気の有る所を知らしめては如何ですか?」

「どういうことだ? それは?」

如月は訝しげな視線を渋沢に向けた。

「総帥が陣頭に立って突撃するのです。あの真宮とかいう男を総帥自身の手で討ち取り、勝利を宣言するのです。敵は総帥の勇気に怯え、戦わずして跪くでしょう。味方もまた、総帥の勇気を再認識し忠誠心を増す事、確実です」

「いいだろう。俺が陣頭に立って、真宮とかいう奴の首を取ってやる!」

目を輝かせて如月は即答した。

(やれやれ、いとも簡単に乗ってきやがった。“豚もおだてりゃ”と昔から言うが、こいつの場合は、“ゴリラもおだてりゃ”だな)

込み上げて来る笑いを懸命に我慢する渋沢の耳に、ゾクリとするほど艶っぽい声が聞こえた。

「あら、素敵なアイデアねえ。総帥自ら、先頭に立って戦うなんて」

振り向くと、村辻香織が立っていた。

「香織か。危ないからここへは来るな、と言ったろうが」

「だって、退屈なんだもん。それに、淋しいし」

 たしなめる如月に向かって、香織はとろけるような笑顔を浮かべて見せた。

「しょうがない奴だな」

 如月の顔と声が、これ以上無いほどにヤニ下がる。

(しょうがないのは、おまえの方だろうが。この好色ゴリラ野郎)

忌々しげに渋沢が舌打ちした時、一陣の風が吹き過ぎた。

「あっ!」

 香織が小さな悲鳴を上げた。吹き抜けた風が、被っていたキャップを虚空の彼方に持ち去ったからだ。

長い黒髪が風にあおられて扇状に広がった。それまでキャップの庇に隠れていた黒い瞳が、揺らめく松明の灯りを受けてキラキラと輝く。

「まさに魔女だな」

渋沢は心の中でそっと呟いた。妖しい微笑みで男を誘惑し、破滅へと導く魔女。

その魔女の魅惑的な唇が開き、赤い舌が蠢いた。

「ねえ、総帥自ら陣頭に立つ以上、参謀もその後に続かなくちゃ恰好がつかないんじゃない?」

魔女の提案に、ゴリラは即座に賛同の声を上げた。

「おう、そいつは良い。渋沢は参謀としては抜群だが、戦闘に直接参加した事はほとんど無かったな。おまえにも勇気が有る所を部下達に見せるまたとないチャンスだ。是非そうしろ」

「は、はあ」

渋沢は忙しく思考を巡らせた。

(魔女め、余計な事を言いやがって…。だが、考えてみれば絶好のチャンスかもしれない。敵の撃った弾が、必ずしも如月に当たるとは限らない。だが、俺の撃った弾は必ず当たる。何しろ俺は、“奴の後ろに続かなければならない”のだからな。唯一の不安は、守備隊長代理の真宮が“あれ”を使うかもしれないという事だが。まず、それはなかろう。誰でも、自分の命は惜しいからな)

 数瞬の間に考えは決まり、渋沢は生真面目な口調で答えた。

「承知しました。総帥の後に続かせていただきます」

              *

「ぐ、ううう~」

気を失ってから、どれくらいの時間が経ったのだろう。

呻き声を漏らして意識を取り戻した蒼い水第三突撃隊副長 服部の視界に映ったのは、荒れ野のあちこちに転がった部下たちの死体と、上官である添田の死体だった。

「隊長…」

物言わぬ上官の顔を凝視する服部の耳に、複数の足音が聞こえた。

慌てて視線を向けると、生い茂る雑草の合間から、市街地に向かうKCD兵士の隊列が見えた。

「急げ! もうすぐ休戦時間が終わる。グズグズしていると戦闘に巻き込まれるぞ」

女の怒鳴り声が聞こえた。その声に聞き覚えがあった。“急げ! グズグズしていると間に合わないぞ!”…銃弾に倒れた服部の傍を駆け抜けて行った、あの女兵士の声だ。

「あの女なのか? 添田さんを殺したヤツらの指揮官」

うめくように呟いた服部の思考は、“復讐”の二文字に固定された。

服部にとって、添田は良い上官だった。腕っぷしだけが取り柄の服部を可愛がってくれ、副長にまで引き立ててくれた。その添田を殺した奴が、すぐそこにいる。

(隊長の仇を取ってやる。奴らを皆殺しにしてやる)

立ち上がろうとした。だが、立てなかった。腹にめり込んだ弾丸が、大量の血と共に立ち上がる力を奪っていたからだ。

(逃がすものか)

服部は四肢を動かして這いずり始めた。地面に血の帯を残しながら・・・。

 

やがて、南鳥井橋の袂で隊列は止まった。彼らは武器を持っていないようだ。その上、殆どの者が負傷しており、ストレッチャーに横たわっている者も多数いる。

(休戦時間とか言ってたな。負傷者を後送するために一時的に休戦したのか? だから、奴らは丸腰で・・・。いや、そんな事はどうでも良い。丸腰だろうが負傷者だろうが、敵は敵だ。そのまま、そこに居ろ。皆殺しにしてやる)

 服部は、悪鬼のような形相で這い続けた。

 

南鳥井橋の袂に差し掛かると、鳥越みゆきは負傷兵の列を止めた。

「間も無く休戦時間が終わる。我々が戦闘圏外に出た合図として信号弾を打ち上げる。その前に、城址に残った仲間たちに別れを告げよう」

負傷兵達は、一斉に神白城址の方へ顔を向けた。手を動かせる者は敬礼し、動かせない者は目を潤ませて黙礼する。

「これが、神白城址の見納めかもしれないわね」

ストレッチャーに横たわった倉沢に顔を寄せたみゆきが、そっとささやいた。

「ああ、真宮や遠村とも、もう会えないだろう」

星空の下に黒々と聳える二つの丘を見つめたまま、倉沢はボソリと呟いた。

左側の丘…本丸跡に建つ資料館には、真宮と遠村、そしてA,C,D、E中隊の生き残りの兵士百九十名が立て篭もっている。包囲する蒼い水主力部隊は、少なくともその数倍の兵力を有している。戦闘が再開されれば、城址守備隊は三十分と保たないだろう。

「鳥越」

「なに?」

「俺は、多くの部下を死なせた挙句に戦場から逃げ出そうとしている。…卑怯者だな」

血を吐くような声で言う。

「そんな事は無い」

 みゆきは、強く頭を振った。

「卑怯者なんかじゃない。・・・あなたは、勇敢に戦って重傷を負ったのよ。誰も・・・。そう誰もあなたを卑怯者だ、なんて言いやしない。・・・だからこそ、あの無口な真宮少尉が、必死になって休戦交渉をしてくれたんじゃない。・・・だから、自分を責めないで。お願い。お願いだから…」

倉沢の腕に強く頬を押し付けたみゆきは、肩を震わせて嗚咽を漏らし始めた。

(“偉丈婦”と呼ばれる女が、俺のために泣いている)

倉沢は、泣き続けるみゆきの横顔をじっと見つめた。

「倉沢、鳥越を大事にしてやれ」

城址を退去する直前、真宮は倉沢の耳元でそうささやいた。

「鳥越は、おまえの前では偉丈婦では無く、“かわいらしい女”で居たいんだ。大事にしてやれ」

「ああ、判った。おまえがそこまで言うんだ。大事にするよ」

 その時は、苦笑いしながら答えた倉沢だった。だが今は、みゆきに対する愛おしさが急速に膨れ上がって来るのを感じている。  

(鳥越は、自分の為の抗生物質まで俺に投与してくれた。このストレッチャーにしても、傷口が開くのも構わず、汗だくになって組み立ててくれた。鳥越は、懸命に俺に尽くしてくれた。それなのに俺は、今まで鳥越の外面ばかりを見て、内面を見ようともせず逃げ回るばかりだった。俺は、恥ずかしい。…だが、今からでも遅くはない)

「鳥越」

 倉沢は、精一杯の優しさを込めた声で呼びかけた。

「え?」

みゆきが涙に濡れた顔を上げた時、隊列の後方で爆発が起きた。絶叫と共に何人かの兵士の体が宙に舞う。

爆煙が収まり切らぬ内に、自動小銃の射撃音が響き渡った。悲鳴と怒号と呻き声が錯綜し、抵抗する術を持たない負傷兵達がバタバタと路上に倒れていく。

倉沢を載せたストレッチャーが大きく傾いた。車軸に銃弾が命中したのだ。倉沢の体は路上に投げ出された。

「寛治さん!」

大声で叫んで倉沢の体の上に覆い被さったみゆきの目の前を、着弾の土煙が走った。

銃声が不意に止んだ。顔を上げたみゆきの目に、路上に転がった仲間の死体と、小銃を杖代わりにして立つ蒼い水の兵士の姿が映った。

「何のつもり? 休戦時間はまだ終わってないはずよ!」

 腰のベルトに差し込んだ信号弾発射筒に手を這わせながら、怒鳴り声を上げる。

「休戦時間? 何の事だ。それより女、弾が当たらなかったのか?運が良い奴だ。だが、これが最後だ」

腹から下を赤黒い血で染めた服部は、幽鬼のように青ざめた顔を歪ませながら小銃を構えた。

「どっちが最後かしらねっ! 丸腰の相手を撃つ卑怯者!」

「なにっ!?」

 挑発的な叫び声に服部の動きが鈍った。その隙をついて素早く体を起こしたみゆきは、野生獣を想わせるしなやかさで右へ跳んだ。着地すると同時に、更に右に転がる。

「この…」

服部は、路上を転がるみゆきに向けて引き金を引いた。着弾の土煙がみゆきの体を包み込む。その煙の中から、赤い光りが迸った。

「ぐぎゃーっ!」

 怪鳥のような悲鳴を上げて服部は倒れた。

「ぐげええ~! ぐはあああ~!」

狂ったように地面を転げまわる服部の胸から、火炎と血が噴き出している。みゆきが撃った信号弾の弾頭が突き刺さったのだ。

数秒後、弾頭は爆発し、服部の体は路上に四散した。

「鳥越!」

倉沢は、動かないみゆきに必死に這い寄った。

焼け火箸を押し付けられた様に背中が痛み、生温かい液体が流れ出ていくのを感じる。ストレッチャーから落ちた衝撃で傷口が開き、出血しているのだ。このまま動き続ければ、出血多量で死ぬだろう。 

(だが、それが何だと言うのだ。みゆきは、俺を守る為に敵兵を挑発し、銃口を自分に向けさせた。命懸けで俺を守ってくれた女を見捨てて生きていけるものか)

「みゆき! みゆき! しっかりしろ」

みゆきは、うっすらと目を開けた。そして、目の前にいるのが倉沢だと気づくと、嬉しそうに微笑んだ。

「うれしい。“みゆき”って、初めて名前で呼んで呉れたのね。寛治さん、愛して…」

 “愛している”と言いたかったのか、“愛して欲しかった”と言いたかったのか・・・。最後まで言わずに、みゆきは目を閉じた。

「何度でも呼んでやる。だから、死ぬな。死ぬな! みゆき!」

倉沢の叫び声は、荒れ野に茂る草の上を空しく通り過ぎていった。

 

 

以下次号

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男性
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年齢□約半世紀
職業□自営
住所□日本
趣味□映画鑑賞
    読書
家族□人間数名
   犬一匹、猫二匹、金魚二匹
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