私ことFKRGが書いた小説(らしき物)を掲載しています。あらかじめお断りしておきますが、かなりの長編です。
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蒼い水 第5章 激闘 6 アップします。
梅雨明け宣言が出されましたが、私はとっくに夏バテです。
梅雨明け宣言が出されましたが、私はとっくに夏バテです。
蒼い水 作 FKRG
第5章 激闘 6
無数の迫撃砲弾が資料館に降り注ぎ炸裂する。その爆発音と煙の中で、資料館を包囲した蒼い水の兵士と資料館に篭るKCD兵士は激しい銃撃戦を展開していた。だが戦況は、明らかにKCD側が不利だった。
資料館二階の展望室は、窓から飛び込んで来た砲弾によって瓦礫の山と化していた。
テーブルもイスも無線機も全て砕け散り、破片となって床の上に散乱した展望室。その片隅で、真宮は壁にもたれて座り込んでいた。砲弾の破片を食らった右の太腿が、血で真っ赤に染まっている。
扉が開き、遠村がよろめきながら入って来た。顔は硝煙で黒ずみ、ダークグリーンの戦闘服のあちこちに血が滲んでいる。
「真宮さん。…もう駄目です」
「判ってる。多勢に無勢だからな」
と言う代わりに、真宮は力なくうなずいた。銃撃戦の音は、展望室に続く階段の下辺りに集中し始めている。
「倉沢達は無事に街に戻ったかな? 照明弾は上がらなかったようだが?」
遠村は、強張った表情を浮かべて首を振った。
「休戦時間終了間際に、南鳥井橋付近から爆発音と銃声が聞こえました。敵が休戦協定を破ったのかもしれません」
「そうか、倉沢と鳥越だけでも生き延びさせようと休戦を申し出たんだが…。駄目だったか。…詫びは、“あっち”に行ってから、ゆっくりしよう」
とは言わずに、真宮も強張った表情を浮かべて首を振った。
階下の銃撃音はいつのまにか途絶えていた。扉の向こうに複数の気配を感じる。勿論、味方では無い。
「どうやら来たようですよ。“あっち”からのお迎えが」
遠村が小銃のコッキングレバーを引いた。
「そのようだな」
押し殺した声で答えた真宮は、胸ポケットから金属製の薄い箱を取り出した。それは、神白城址の守備隊長になった者が肌身離さず持ち歩く規則になっている箱。昨日から今日にかけて、倉沢から遠村へ、そして真宮へと受け渡された箱だ。
箱の側面の小さな突起を押す。パチリと小さな音がして蓋が開き、横長の液晶画面とフラットスイッチが現れた。
「遠村、少し時間を稼いでくれ」
真宮は、出血でかすみ始めた目を凝らしながら呟いた。
「どうぞ、ごゆっくり。でも、パスワードを忘れてないでしょうね?」
そう言いざま、遠村は引き金を引いた。
軽快な発射音と共に、扉と扉の左右の壁に十数個の孔が穿たれた。銃声が止むと、苦しげな呻き声が扉の向こうから聞こえ、そして何かが倒れる重々しい音が響いた。
「まだ、それほど耄碌していない」
苦笑しながら真宮は、フラットスイッチの上に指を走らせた。八桁の数字から成るパスワードを打ち込み、最後にエンターキーを叩く。薄青色の画面に、黒い文字が浮かび上がった。
“クンレン? Y/N”。
Nのスイッチを押す。
“キバク シマスカ? Y/N”。
Yのスイッチを押す。
“ホントウニ? Y/N”。
(本当さ)
ニヤリと笑ってYのスイッチを押す。液晶画面に三桁の数字が浮かび上がった。
“600”。
数字の値は、一秒ごとに小さくなっていく。
“599、598、597…。”
カウントダウンが開始された事を確かめた真宮は、蓋を静かに閉じて胸ポケットに戻した。入れ替わりにタバコの袋を取り出し、覗き込む。二本、残っていた。
「吸うか? 遠村」
「せっかくですが、俺は吸わないんですよ。もし、“あっち”に安城さんが居たら、上げてください。あの人、結構ヘビースモーカーなんですよ」
視線と銃口を扉に向けたまま、遠村はニコリと微笑んだ。
「そうか・・・。じゃあ、そうしよう」
苦笑いした真宮がライターを取り出そうとした時、轟音と同時に扉に拳ほどの大きさの穴が開いた。
「ぐおっ!」
遠村の体が、“く”の字に曲がって後ろに吹き飛んだ。壁にぶち当たり、真っ赤な血の帯を壁に塗りつけながらズルズルと下がる。下がり切って床に尻餅をついた時、遠村の息は絶えていた。
「遠村!」
真宮が腰のホルスターに手を伸ばした瞬間、再び轟音が響いた。弾丸は右肩を撃ち抜き、引き抜いたばかりの拳銃が鈍い音を立てて床に転がった。
(これで完全に戦闘不能だな)
激痛に顔を歪める真宮の視線の先で、孔だらけになった扉が蹴破られた。
「おまえか、真宮とかいう奴は?」
地鳴りのような声が瓦礫だらけの展望室に響いた。その声の主に、真宮はゆっくりと視線を向けた。
ゴリラのような体躯と顔を持った大男が、すぐ目の前に立っていた。右手に薄煙を上げるショットガンをぶら下げ、数人の兵士を従えている。
「そうだ。KCD D中隊中隊長 真宮誠治少尉。アンタは?」
問う声がかすれた。
「俺は蒼い水総帥 如月正一」
男は誇らしげに答えた。
「そうか、アンタが総帥閣下か…。お初に、お目にかかる。座ったままで失礼するよ。何せ、立てないんでね」
真宮は咳払いをして声を整えながら、如月の背後に立っている兵士達の顔を流し見た。
一人の男の顔に視線が釘付けになった。削いだような頬と異様に鋭い目つきに覚えがある。
(川村中尉が、梨村や竹田と一緒に連れて来ていた奴だ。戦争が終わってから間も無く姿を消した。名前は確か…)
「渋沢か…。久しぶりだな。知らぬ間に神白から消えたと思っていたら、バンディッツに潜り込んでいたのか? あれほど川村さんに信頼されていたのに…。意外だな」
(ちっ! 覚えていたか)
渋沢は内心舌打ちした。そして、自分の不覚を呪った。
ドサクサに紛れて、背後から如月を撃ち殺す積りだった。だが、文字通り肉弾相打つ戦闘の中では自分自信の身を守るのが精一杯だった。気がついた時には戦闘は終息しており、目の前に真宮が居た。
「昔はともかく、今は蒼い水の参謀だ」
感情を押し殺した声で渋沢は答えた。だが、その声は微かに震え、表情も僅かだが揺らめいている。
渋沢の動揺を、真宮は見逃さなかった。
(間違いない。こいつは川村中尉と通じている)
そして、それは、つまり…。
(つまり、安城が抱いていた危惧が事実だったということだ。内通者は確かにいた。風力発電所を襲った黒畑の上官だった男。そして今、目の前に居る渋沢の上官だった男。俺や倉沢、安城、遠村、楠木、桜、鳥越…多くの仲間、部下、そして神白の市民達が、KCDの実質上の司令官として仰いできた男・・・川村翔。彼こそが、内通者だったのだ。いや、単なる内通者であるはずが無い。最終的な目的が何かは判らないが、今回の出来事の全てを裏で操っているのは川村に違いない。KCDも蒼い水も、全てヤツの掌の上で踊る人形だったのだ。…そして踊りが終わり、必要が無くなった人形の末路は…)
「く、くくくく」
タバコを咥えたままの真宮の口から、押し殺した笑い声が漏れ出た。声と共に傷口から血が流れ出し、顔色が見る内に紙の様に白くなっていく。
「こいつ、狂ったのか?」
如月とその部下達は、笑い続ける真宮を気味悪げな表情を浮かべて見つめた。
不意に笑い声が止まった。真宮の鋭い目が、如月の顔を睨みつける。
「総帥閣下、御存知か? “狡兎死して、走狗煮らる”という諺を…」
大量の出血で薄紫色になった唇を震わせながら、如月に問いかける。
「なに?! 何が言いたいのだ。キサマ」
「判らないのか? ・・・そうか。まあ、そうだろうな」
物憂げに言った真宮は、大儀そうに目を閉じた。
「総帥、コイツは狂っています。さっさと始末して市街地に向かいましょう」
渋沢が金切り声を上げた。目に焦りの色が浮かんでいる。“狡兎死して、走狗煮らる”。その言葉で、真宮が自分と川村の繋がりを、そして神白攻略作戦の本当の目的を看破したと気付いたからだ。これ以上、真宮に喋られては、自分自身の命が危なくなる。
「良い例えを思い出したよ。“飼い犬に手を噛まれる”という奴だ」
渋沢の声に反応したかのように目を開いた真宮が、ボソリと呟いた。
「いい加減にしろ! 何が言いたいんだ? キサマ!」
怒鳴り声を上げた如月は、ショットガンの銃口を真宮の額に押しつけた。
「何が言いたいって? 背中に気をつけろ、と言いたいのさ。…それでも…まだ…判らないなら…アンタの参謀に…聞け。…俺は…もう…」
真宮の首がガクリと垂れ、口の端に咥えていたタバコが、ついに火を点けられぬまま床に落ちた。そしてKCD D中隊中隊長の目と口は、それきり二度と開かなかった。
「渋沢、どういう意味だ!?」
如月がグローブのような手で渋沢の胸倉を掴み上げた時、せわしげな電子音がどこからともなく聞こえてきた。
「なんだ? あの音は?」
「どこから聞こえてくる?」
音量こそ小さいが何処か神経を逆撫でするその音の発生源を求めて、男たちは視線を室内に巡らした。
渋沢がハッとした表情を浮かべた。如月の腕を振り解き、転がる様にして真宮の傍に駆け寄る。死者の胸ポケットを探り、薄い金属製の箱を抜き出す。音は、その小さな箱から発せられていた。
「ま、まさか…」
震える指で蓋を開き、細長い液晶画面に目を凝らす。
“100”、“99”、“98”…。
画面に表示される数値は、一秒ごとに小さくなっていく。
「ば、馬鹿なっ!」
只でさえ青白い渋沢の顔色が更に青くなった。まるで蒼い水のように…。
「ひっ!」
悲鳴を上げて箱を床に投げ捨てた渋沢は、驚くほどの素早さで展望室からベランダへと飛び出した。ベランダに張り巡らされた柵の手前で一旦立ち止まり、下を覗き込む。だが、それはほんの僅かの時間だった。
軽く息を整えた渋沢は、右手でベランダの手摺を掴んだ。それを支点にしてひらりと柵を越え、そのまま数メートル下の地面に飛び降りる。
「渋沢!」
如月の形相が、虎でさえ逃げ出すであろう程の憤怒のそれに一変した。
(奴は、蒼い水を利用して神白を手中に収め、そして背中から俺を撃つ積りだった!)
論理的思考の末に辿り着いた結論ではない。全くの直感だった。だが、如月は己の直感を信じていた。そうやって、激動の時代を生き抜いてきたからだ。
「あの野郎!」
ベランダに駆け出た如月の視界に、崖縁に辿りついた渋沢の背中が映った。飛び降りた時に痛めたのだろう、片足を引き摺っている。
「裏切り者!」
ショットガンの銃口を向け、引き金を引く。轟音と同時に渋沢の姿は消えた。弾丸が命中して崖を転がり落ちたのか、それとも自分から飛び降りたのか…。
「総帥!」
部下の一人が駈け寄って来た。手に、渋沢が投げ捨てた箱を持っている。電子音はすでに消えており、液晶画面に浮かび上がった数値は“0”になっていた。
鈍い爆発音が階下から…地下深くから聞こえた。次いで、地震でも起きたかの様に床が揺れ、何かが勢い良く吹き上がる気配があちこちから伝わって来る。
「何事だ!?」
キョロキョロと周囲を見回す如月と部下達の視線が、資料館東側に広がる荒れ果てた公園跡に向いた時、闇にも白く見える液体が噴水の様に吹き上がった。十メートル近い高さまで達した白色の噴水の数は、見えるだけでも十本以上あった。ツンと鼻につく揮発性の匂いがベランダまで漂って来る。
「あれは、一体?」
部下の一人が呟いた時、白色の噴水は轟音と共に真っ赤な炎の柱に姿を変えた。
二つの丘の随所から吹き上がった数十本の炎の柱は、激しく揺れ動きながら次々に合流していった。そして全ての柱が資料館上空で一つになった瞬間、大爆発が起きた。城址とその周辺に、無数の炎の塊が降り注ぐ。
「うぎゃ~っ!」
「ひいい~っ!」
「あ、熱いっ! た、助け…」
如月の部下達は、窓から飛び込んで来た炎の塊に薙ぎ倒され、絶叫を上げて床を転げ回った。
しかし、如月は立っていた。
右手に愛用のショットガンを握り締めたまま、火炎地獄と化した室内を見回す。壁に凭れた真宮が視界に入った。炎に照らされた横顔が微笑んでいるように見える。
「…してやられたよ。おまえ達を…KCDを甘く見すぎた」
再び爆発が起こり、炎の大波が展望室内に流れ込んで来た。如月の体はその波に飲み込まれ、松明の様に燃え上がった。
「うおおおおー!」
断末魔の絶叫を上げながら、如月は床に倒れた。炎は彼の肉体と野望を包み込み、そして容赦無く焼き尽くした。
以下次号
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