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私ことFKRGが書いた小説(らしき物)を掲載しています。あらかじめお断りしておきますが、かなりの長編です。 初訪問の方は、カテゴリー内の”蒼い水、目次、主要登場人物”からお読み下さい。 リンクフリーです。バナーはカテゴリー内のバナー置き場にあります。 フォントの都合上、行間が詰まって読みにくいかもしれません。適当に拡大してお読み下さい。
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蒼い水 第3章 監禁 4 アップします。

蒼い水               作 FKRG

 

第3章 監禁4 

 

「遠村さん、起きてください。妙な通信が入っています」

五月七日 午前六時、毛布にくるまって眠っていたKCD C中隊中隊長代理 遠村誠准尉は、通信兵に叩き起こされた。

「妙な通信? 何が妙なんだ?」 

早足で通信室へ向かいながら、遠村は質問した。

「先ほどから三分おきに、中隊内通信用の周波数を使って何者かが遠村さんを呼んでるんです」

「中隊内通信? じゃあ、ひょっとして、送信者は安城少尉か?」

遠村の声が弾んだ。

「遠村、俺の代理としてC中隊を指揮してくれ。頼むぞ」

そう言い残して、安城が奥川村ダムに向かったのは、三日前の午後の事だった。

だが、中隊を任せられた誇りに遠村が有頂天になっていられたのは、それからほんの一時間足らずの間だけだった。安城がジープごと行方不明になって以来、遠村の肩には“責任”という名の重しが容赦なくのしかかってきた。遠村はその重圧に良く耐え職務に励んだ。だが、疲労の色は隠せない。

「違います。安城少尉の代理だと言っていますが、聞き覚えのある声ではありません」

溜息混じりに答えた通信兵が、チラリと腕時計を見た。

「そろそろです」

スピーカーから流れていたノイズが不意に途切れ、代わりに年配の男の声が聞こえてきた。

「こちらは安城少尉の代理の者だ。遠村誠准尉、応答して欲しい。重要な情報を伝えたい。オーバー」

遠村は、間髪を入れずにマイクのスイッチ押した。

「こちらは、KCD C中隊中隊長代理の遠村准尉だ。情報を聞く前に尋ねたい。あなたは何者だ? そして、安城少尉は何処にいる。いや、無事なのか? オーバー」

すぐに応答があった。

「私が誰かは、現時点では明かすことはできない。しかし、君達に敵対する者では無い、と言っておこう。安城少尉は生きている。小川さゆり初級兵もだ。二人は奥川村ダムにいるはずだ。オーバー」

「ダムにいる? 本部からもG中隊からも、そんな連絡は受けて無いぞ。オーバー」

遠村は上ずった声でマイクに向かって叫んだ。

「それは私の預かり知らぬ事だ。情報を伝えよう。今日の日暮れまでに、バンディッツ集団 蒼い水が神白を襲う。まずは、東と西から四百ずつの兵力で…。だが、これは陽動部隊だ。時間を置いて南から主力部隊が攻め寄せてくる。その兵力はおよそ二千。君達C中隊が駐留している守川町は、バンディッツ主力部隊の進撃路上に有る。対応策を練っておいた方が良いだろう。この情報を信じる信じないは君達の自由だ。交信を終わる。オーバー」

「待て! バンディッツだと? どう言う事だ?」

応答は無かった。

           *

「信じますかね?」

マイクを置いた鳴海に水筒を差し出しながら、大津が質問した。

「何とも言えんな」

受け取った水筒の水を一口飲んだ鳴海は、遠くにかすんで見える守川町の家並みに目を向けたまま素っ気無く答えた。

「信じるか信じないか…。これから先は、副司令官の川村次第だ。安城少尉が言った通りの有能な人間なら、それなりの対応策を立てるだろう」

「あの男が生きていれば、絶好の証人になったんですが」

 大津は残念そうに首を振った。

 

 昨日の日暮れ前、猪獲りの罠を点検に出かけた大津と草加は、渓谷沿いの道端に倒れている男を発見した。

「また、お客さんか? 近頃、にぎやかなことだな」

「客は客でも“招かれざる”の方だぜ。こいつはバンディッツだ」

 胸を血に染めた男を抱き起こした草加が、露骨に顔をしかめた。

「みたいだな。しかも相当、無鉄砲な奴だ。この山道をあんなオンボロバイクで登って来るとはな」

 大津が、呆れ顔で顎をしゃくった。

数メートル先の草むらに、スクラップと化したバイクが転がっていた。タイヤはひしゃげ、エンジンブロックは砕けている。傍の岩角に血がこびり付いていた。バイクから放り出された時、胸をぶつけたのだろう。

「おい、傷は深いぜ。何か言い残す事があったら、さっさと言っちまえ。気が向いたら覚えといてやる」

 男のひび割れた唇に水筒の飲み口を押し付けながら、草加が質問した。

「おまえ、KCDか?」

 かろうじて一口だけ水を飲んだ男は、生気の無い目で草加を見上げた。

「まあ、そんなもんだ。そう言うおまえはバンディッツだろう?」

「ああ、食い物と酒に不自由しないと聞いて…蒼い水に入った。…だが大間違いだった。…神白を襲う? …KCDと戦う? …馬鹿げてる。だから、…逃げ出したんだ」

 切れ切れに呟いた男は、ガクリと首を落とした。

「蒼い水? 神白を襲う? どういう事だ? おいっ、もうちょっと喋ってから死ねよ。おいっ!」 

 死人となった男のポケットから紙片が出てきた。それは、神白攻略作戦の概要を記したメモだった。

 

「死んじまった奴は生き返らない。それより、あるでしょう? 俺達にできる事が」

ジープの後部座席に座っていた草加が、苛立たしげな声を上げた。

「おまえの言いたい事は判っている。二人を…安城少尉と小川初級兵を救出しようと言うんだろう。だが、それはできん」

「なぜです? 奥川村ダムの秋川は、安城少尉の事を本部に報告していないんですよ。奴は、バンディッツに寝返っているに違いない。二人は監禁されているか、或いはひょっとして…」

「殺されては、いないだろう」

草加が口にしかけた言葉を、鳴海は先回りして否定した。

「監禁はされているだろうが、殺されてはいまい。監禁程度なら、幾らでも理由はつけられる。だが、本部に無断で幹部を殺したとあっては、問題視される事は目に見えている」

「でも、G中隊全部がバンディッツに寝返っているとしたら…」

「G中隊全員が寝返っているとは考えにくい。いや、むしろ、事情を知らぬまま秋川に従っている者が大多数だろう」

「どうして、そう言い切れるんですか?」

「ダムにいるのはG中隊だけではない。保養の為に来た他の中隊の兵士や一般市民が多数滞在している。F中隊の件以降は途絶しているが、それ以前には人の出入りが煩雑にあった。KCDの兵士だの一般市民だのとは言っても、元をただせば神白の住人…つまり顔見知りだ。仮にG中隊が丸ごと寝返っているとして、それを他の者に隠しおおせると思うか?」

「そ、それは…」

草加は、絶句せざるを得なかった。

「秋川中尉が、何らかの形でバンディッツに通じているのは確実だろう。だが、それに同調しているのはごく少数の人間だけだ。そうでなければ、“敵であるバンディッツに通じている”などという大それた秘密は保てないからな。そんな状況で安城少尉を殺せば、大騒ぎになること火を見るより明らかだ。秋川に余程の覚悟が無い限り、安城少尉を殺すなどという暴挙には出ないさ。・・・で、俺達があの二人を救出する? そんなことをすれば、俺達は何も知らないKCDの兵士たちと戦わねばならなくなる。そんな事態を、安城少尉が望むと思うか? それに、その騒ぎに紛れて、秋川か或いはその仲間が二人を殺そうとする可能性だってある。とにかく、今の俺達に出来ることは状況を見守ることだけだ。そうだろう?」

「ジープの傍にあった死体、花が供えてありましたね。きっと、小川さんが手向けたんだろうな」

反論する代わりに、草加は湿っぽい声で言った。

鳴海たちが乗っているジープも遠村との交信に使った無線機も、どちらも安城が遺棄したものだ。林道脇の草むらに隠されていたジープの傍には、血にまみれたKCD兵士の死体が二つ並べられていた。両手を胸の上で組んで仰向けに寝かされたその頭元には、花を付けた山ツツジの枝が一本ずつ置いてあった。

ジープを遺棄した場所や遠村がC中隊隊長代理であること、そして、ダムに駐留するG中隊の動向が不穏であることなどを、安城とさゆりから直に聞いた訳ではない。二人との会話の端々から得た情報を繋ぎ合わせた結果だった。内務監察部において何百人もの人間を尋問してきた鳴海にとって、世間話の合間にその程度の情報を引き出すことなど、さしたる難事ではないのだった。

だが、鳴海に悪意があったわけではない。そもそも鳴海自身、二人から情報を引き出している、という自覚などなかった。こうなると一種の職業病と言えるのだが、自分でも気づかぬ内に誘導尋問をしていたのだ。

だが、その救い難い職業病が、見ず知らずの自分達に心を開いてくれた二人を救う手がかりになるかも知れないと思えば、罪悪感もやや薄れる鳴海だった。

「ああ、きっとそうだろう」

短く答えた鳴海の脳裏に、小川さゆりの笑顔が浮かんだ。

その笑顔と、数年前、戦禍に巻き込まれて死んだ娘の面影とが重なった。“死んだ娘が、小川さゆりの姿を借りて、好きになった男を伴って会いに来た”。そう思えてならなかった。

それと同じような思いを、草加も大津も下部も山尾も抱いている。戦争から守ろうとして守りきれなかった大切な人達…親兄弟姉妹、息子、娘、妻或いは恋人…。それらの人々を、安城と小川さゆりの二人に投影しているのだ。

だからこそ、蒼い水が神白を狙っていることを知った時、五人は誓った。

「あの二人を守ろう。あの二人が守ろうとしている神白を、俺達も共に守ろう」

と…。

「状況を見守るにしても、いずれは行動を起こすんでしょう?」

 それまで黙っていた大津が、鳴海に問うた。

「ああ、勿論だ」

大津の目が好戦的な色に染まった。

「じゃあ、その準備をしとかなくちゃ。おい、草加。タソガレてる暇なんて無いぞ。やる事は一杯ある。まずは、物置に仕舞い込んだままの武器や装備のオーバーホールだ」

「OK、そうこなくちゃ! でも、それほど時間は掛からないぜ。こういう事もあろうかと、日頃から手入れしてある」

 そう答えた草加の表情も、先ほどまでとは打って変って活気に満ちていた。

「さすがだな。じゃあ、他には…。うん、爆薬と信管があったな。あれを使って仕掛け爆弾を作っておくか。久々に腕が鳴るぜ」

大津はメカに強い。故障していた安城のジープと無線機を直したのも彼だ。材料さえあれば、爆弾の一つや二つ簡単に作ってしまう。

「おい、おまえ達、俺はそういう意味で言ったわけじゃ…」

「いいから、いいから。準備は俺達がやります。鳴海さん・・・いや鳴海中佐は、どこでどう行動を起こすかを考えといてください」

 大津が下手糞なウィンクをした。

「お願いしますよ。中佐」

 草加も、両手を顔の前で合わせて鳴海の顔を覗き込む。おどけた仕種だ。しかし、二人の目は笑っていない。

「ちっ、しょうがない奴らだな」

 鳴海は、苦笑いを浮かべながらも頷くしかなかった。

 
以下次号

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