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私ことFKRGが書いた小説(らしき物)を掲載しています。あらかじめお断りしておきますが、かなりの長編です。 初訪問の方は、カテゴリー内の”蒼い水、目次、主要登場人物”からお読み下さい。 リンクフリーです。バナーはカテゴリー内のバナー置き場にあります。 フォントの都合上、行間が詰まって読みにくいかもしれません。適当に拡大してお読み下さい。
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蒼い水 第3章 監禁6 アップします。

蒼い水               作 FKRG

 

第3章 監禁6 

 

蒼い水主力部隊が木原中学校跡を進発した頃、神白市庁舎二階の会議室において、KCD幹部会議が開かれていた。出席者は副司令官の川村、参謀の梨村、A中隊中隊長 楠木、B中隊中隊長 北川、D中隊中隊長 真宮、E中隊中隊長 倉沢、親衛第一中隊と第二中隊の隊長を兼任する竹田の七名。

司令官の島崎は、軍事的な議題が主であるということと市政公務多忙であるという理由で欠席している。C中隊中隊長代理の遠村も、守備任務多忙を理由に欠席していた。

「以上、述べたように、北川少尉による新入隊員の基礎訓練の経過は順調です。そしてこれとは別に、入隊を志願して来た者の中から軍務経験を持ち即戦力に成り得る者百名を選抜しました。うち五十名は、既に神子川風力発電所守備に就いており、残りは各中隊へ補充兵として順次派遣します」

 経過報告を終えた梨村が口を噤むのと同時に、倉沢が口を開いた。 

「今朝、謎の男がC中隊に伝えた例の情報…バンディッツの大攻勢について、副司令官はどう考えておられるのかをお聞きしたい」

「基本的には取り合わないつもりだ。何処の誰とも知れぬ者からの情報を鵜呑みにして右往左往すれば、却って混乱を招く元になるからな。しかし、諸君には一層の警戒をお願いしておく」

(一層の警戒、か…。まあ、予想していた通りの答えだ)

倉沢は、次の質問に移った。

「では、安城のことですが…」

「その件についてはG中隊に問い合わせました。安城少尉は奥川村ダムに姿を現していない、との回答です」

梨村の冷たい声が、倉沢の声を遮った。

「梨村少尉、私は副司令官にお聞きしているのだ」

倉沢は、苛立たしげな色を浮かべた目で梨村を一瞥した。

「倉沢少尉、君は同僚である秋川を信じずに、何処の誰とも知れぬ者からの情報を信じるのかね?」

「私とて秋川を信じたい。だが、ここ数日間のG中隊・・・いや、秋川少尉の態度は余りに不自然だ。再三の帰還命令にも関わらず、言を左右にしてダムから出てこようとしない。抗命罪に問われても止む終えない行為と言える。現時点において、私は秋川少尉を信用できない」

確固たる口調で倉沢は言い切った。

「では、どうすれば良いと、君は思うかね?」

「期日を切った上で、本部に帰還するよう秋川少尉に命令すべきでしょう。それに応ぜぬ場合は…」

「しかし、秋川少尉が帰還しない理由として挙げている“バンディッツの襲撃”を無視する事は出来ない。G中隊をF中隊の二の舞にさせる訳にはいかないでしょう」

梨村が、再び倉沢の言葉を遮った。

「黙れ! 梨村!」

会議室に倉沢の怒鳴り声が響いた。

戦闘中以外の場で倉沢が怒鳴り声を上げるなど、滅多に無いことだった。室内にいる全ての者がその剣幕に驚き、次いで唖然とした表情を浮かべた。

「F中隊の二の舞だと?! では、安城への命令、あれは何だ?!“奥川村ダム方面に敵はいないと推察される。ゆえに、貴官においては一個分隊程度の兵力を率いてダムに向かうように…”。敵はいない? どういう根拠からだ? 中途半端な兵力で向かわせた為に、敵の待ち伏せに遭って六名が戦死し、安城以下四名は今も行方不明のままだ。更にさかのぼって言えば、F中隊に対して戦力分散の陣形を取るよう提示した責任をどうとる積もりだ? 下級指揮官の質の向上を意図した事とは言え、結果としてF中隊は全滅し、桜も戦死した。僅か数日の間に、我々は全兵力の一割と幹部二名を失ったのだ。なのに敵の正体も、兵力も、その目的も依然として不明のままだ。梨村少尉、貴官は参謀としてどう責任を取るつもりなのだ!?」

「そ、それは…」

倉沢の強い口調に、梨村は顔色を蒼白にして俯いてしまった。

「まあ、そう梨村ばかりを責めないでくれ。責任は私にもある。梨村の案に許諾を与えたのは、この私なのだからな」

川村が、取り成すように言った。

「川村さん、あなたはいつもそうやって梨村を庇う。KCDの実質上の指導者であるあなたを責めることなど、誰が出来るというのだ? 結果として梨村の未熟としか言いようの無い作戦案がまかり通り、兵達は無駄死にしていく。この際、梨村を参謀から更迭すべきではないのか?」 

とまでは、さすがに倉沢は言えなかった。代わりに不信と諦観をない混ぜにした目で、川村を睨みつけただけだった。

それきり誰も口を開こうとせず、会議室は気まずい沈黙に包まれた。

「そう、あなたにも責任がある。川村副司令」

 しわがれた声が一分近く続いたその沈黙を破り、その声の主…A中隊中隊長 楠木清三少尉に、全員の視線が向けられた。

白髪と顔のシワが目立つ楠木は四十八歳。KCDにおける最年長者だ。軍歴は三十年を数え、実戦経験も群を抜いている。幹部会議などでは余り発言しないが、普段は気さくで、自分の子供ほどに年の離れた同僚や部下達の良き相談相手になっている。

「そして、我々の責任でもある。梨村少尉の参謀就任を認めたのは、幹部である我々なのだから。その責任において、敢えて言わせて貰おう。梨村少尉は参謀としての資質に欠けている、と言わざるを得ない。梨村少尉にも言い分はあるだろうが、倉沢少尉が言ったとおり、全兵力の一割と幹部二名を失った責任は免れない。今の我々には、全幅の信頼をおける参謀が必要だ。川村中尉、私の言わんとする所を判って頂けますかな?」

楠木が口をつぐむと、深海のような沈黙が再び会議室を支配した。誰も咳払い一つしない。

「…」

川村は、無言のままテーブルを囲む幹部達の顔を見渡した。

楠木は、腕を組んで目を瞑っていた。北川と竹田は、日頃に似合わぬ楠木の言動に度肝を抜かれた、と言う顔をしている。倉沢は川村の顔を正面から見つめ、真宮はいつものように虚空を睨みつけている。梨村は俯いたままだ。

川村は、フッと小さな溜息をついた。

「判った。梨村少尉には参謀の職を退いてもらう。後任の参謀は…。真宮少尉、貴官にお願いする」

 虚空を睨んでいた真宮の表情に、驚きの影が掠めた。だが、それはほんの一瞬のことで、すぐにいつもの怜悧な表情に戻った。

「承知しました。謹んで参謀職をお受けいたします」

 とは、言わなかった。こくりと首を縦に振っただけだ。

「後任の中隊長は、D中隊の中から適任と思われる者を選んでくれ。再編成から一年が経った。そろそろ新幹部が誕生しても良いだろう。参謀交代とD中隊隊長の交代は、三日以内に行うこととする。皆、異論は無いな?」

 居並んだ幹部たちは、無言で頷いた。

「北川少尉は、引き続き新入隊員の訓練を行ってくれ。C中隊は、遠村准尉を少尉に昇格させ中隊長とする。倉沢少尉、当分の間、遠村の後見役を頼むぞ」

川村の言葉に、倉沢は焦り声を上げた。

「後見役はお引き受けします。ですが、安城少尉の件はどうします?」

「次の定時連絡で、私が直接、秋川と話す。それでもまだ埒があかぬようなら、私自らがダムに赴いて秋川を拘束する。安城が無事であればG中隊を任せる。それで良かろう?」

まだ何か言いたそうな倉沢を無視して、川村は俯いたままの梨村に視線を移した。

「梨村少尉、長い間、ご苦労だった。ただちに参謀引継ぎの準備にかかってくれ」

「承知しました。引継ぎの準備にかかります」

顔を上げると同時に立ち上がった梨村は、蒼ざめた表情のまま川村に向かって敬礼した。

 

「オヤジさん」

会議が終わり廊下に出た楠木に、倉沢が声を掛けた。

「ん?」

振り向いた楠木は、つい先ほど参謀更迭を迫った人物と同一とは思えない穏やかな表情を浮かべていた。

「ありがとうございました。私の代わりに言って頂いて」

「梨村のことか?」

「はい」

「なあに、礼を言われる程の事ではない。以前から俺は、梨村は参謀としての資質に欠けている、と思っていた。それを今日、表明しただけのことだ。“あっち”に行ってしまった桜も、行方不明の安城も同じ事を言っていた。口には出さないが、真宮も危機感と不満を持っていたはずだ。だからこそ、参謀就任を二つ返事で受けたのだろう。つまり俺は、お前達の総意を代弁したわけだ」

「ですが、竹田たちは…」

 言いよどむ倉沢を見て、楠木はニコリと笑った。

「竹田と北川は違う、と言いたいのだろう? 彼らは梨村と同じ“守勢派”だからな。“攻勢派”であるオマエによって仲間が更迭されるのを、快く思わないだろう。だからこそ、オマエに代わって俺が更迭を迫ったのさ。オマエが梨村の更迭を迫れば、幹部の連携に決定的なヒビが入る恐れがある。恨まれ役は俺一人で良い」

「しかし、それではオヤジさんの立場が…」

倉沢が眉をひそめると、楠木は軽く右手を振った。

「そろそろ潮時さ。自衛隊から防衛軍、そしてKCD。気が付いたら三十年の軍隊暮らし。いい加減、疲れたよ。それに、川村中尉も言ったていたように、新しい幹部が出ても良い時期だ。俺の隊でも若手が育っている。四人の小隊長の誰でも、今すぐ中隊の指揮が執れるほどに、な。…ああ、いや、鳥越は駄目だな。あいつは血の気が多すぎる。猪突猛進と言う奴だ。恋人でも出来れば、少しはバランスが取れると思うんだが。そうは思わんか?」

笑顔のまま、楠木は倉沢の顔を覗き込んだ。だが、その目は笑っていなかった。

「は、はあ…」

 返答に困った倉沢は、目を瞬かせて黙り込んでしまった。

楠木は、“偉丈婦 鳥越”こと鳥越みゆきを、実の娘の様に可愛がっている。そのみゆきが倉沢に好意を寄せていることを知って、何とかその想いを成就させてやろうとしているのだ。先夜の“バースディパーティーのお裾分け”のように…。

(だが、しかし、こればかりは)

途方に暮れる倉沢の肩を誰かが叩いた。振り向くと、真宮が立っていた。

「おう、真宮。遅かったな」

 倉沢の顔に“これで、オヤジさんの詰問から逃げられる”という、安堵の表情が浮かんだ。

「いや、先ほどから見物してたんだがな。おまえの形勢が不利になったんで、助けてやったんだよ」

 とは、真宮は言わなかった。唇の端を軽く曲げて頷いただけだ。

「う、ごほん」

 わざとらしく咳払いした倉沢は、楠木の方に向き直った。

「鳥越上級兵の事は、また次の機会に…。それよりオヤジさん、これからの予定は?」

そう問い掛けた倉沢の表情は真剣そのものだった。そう、今は色恋沙汰の話しをしている場合ではないのだ。

「射撃訓練場に行く。技術部から新兵器のお披露目をすると連絡があったんでな。君らにも連絡があったろう?」

「ええ、行こうと思っています。ですが、まだ時間が有ります。その間に、真宮を含めた三人でお話したいことが有るのですが」

「うん、構わんが」

 頷いた楠木の顔も真剣なものになっていた。

 
以下次号

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