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私ことFKRGが書いた小説(らしき物)を掲載しています。あらかじめお断りしておきますが、かなりの長編です。 初訪問の方は、カテゴリー内の”蒼い水、目次、主要登場人物”からお読み下さい。 リンクフリーです。バナーはカテゴリー内のバナー置き場にあります。 フォントの都合上、行間が詰まって読みにくいかもしれません。適当に拡大してお読み下さい。
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蒼い水 第4章 包囲 2 アップします。

蒼い水               作 FKRG

 

第4章 包囲2 

 

登り坂の途中でゴリアテは動かなくなった。モーターが喘ぐような音を立てている。

「あら、止まっちゃった。ダメね~。まったくウチの技術部の連中ときたら、ロクなモノ作らないんだから。オヤジさん、どうしてこんなガラクタと、大事にしていた焼酎を交換しちゃったんですか?」

コントローラーから手を離した鳥越みゆきが、抗議の視線を楠木に向けた。

「まあ、そう言うな。どれ、俺に貸してみろ」

苦笑いを浮かべた楠木は、みゆきからゴリアテのコントローラーを取り上げた。

「コイツはラジコンカーと同じだ。出鱈目にスティックを動かせば良いという物じゃない」

コントローラーに取り付けられた二本のジョイスティックを、指先で軽く動かす。止まっていたゴリアテが、ゆっくりとだが坂道を登り始めた。

「お上手ですね」

みゆきが白い歯を見せて笑った。笑うと、年相応の娘らしい顔になる。

楠木とは親子ほども年が違うみゆきだが、楠木より頭一つ背が高い。体格も女とは思えぬほどにがっちりしており、気性も男勝りだ。“偉丈婦の鳥越”と仲間内から呼ばれている。だが勿論、本人に面と向かって言う者はいない。文字通り、“張り飛ばされる”からだ。

「なに、息子が好きだったんでな。付き合わされてる内に覚えたのさ」

楠木の表情に僅かに影がさした。

「あ!」

みゆきは小さく叫んだ。楠木の家族は、戦災で全て死んでいる事を思い出したのだ。

「も、申し訳ありません。私…」

大きな体を屈めて恐縮する。

「気にするな」

楠木の指がジョイスティックから離れた。ちょうど坂道を登り切った所でゴリアテが停止する。

「気にしなくても良い。皆、同じだ。子供や妻を失った者、夫を失った者、親兄弟を失った者。鳥越、おまえだってそうだろうが」

コントローラーをテーブルの上に置いた楠木は、ゴリアテを見つめたまま低く呟いた。

「ええ…」

みゆきの父親は軍属として中国に赴き、そこで死亡していた。母親は、夫の後を追うように病死した。

「俺は戦争で妻や子を失った。だが、淋しくは無い。今の俺にはA中隊という家族が…やたら元気のいい娘や息子が、百六十人からいるんだからな」

ニコリと笑う。笑うと、只でさえシワの多い顔が一層シワだらけになった。そのシワだらけの顔を見るたびに、みゆきは死んだ父親を思い出す。優しい父だった。

「オヤジさん」

みゆきの大きな目に涙が溢れた。顔がグチャグチャに歪む。

「おい、泣くなよ。おまえが泣くと、俺まで泣けてくる」

困惑する楠木の耳にコール音が聞こえた。階下の通信室と繋がるインターフォンからだ。救われたような表情を浮かべて、楠木はハンドセットを取り上げた。

「何事だ。…なに、本当か!? それで?」

受話口から流れる声に楠木は一々頷いた。頷く度に表情が真剣になっていく。

「全隊員に第一級警戒態勢を取らせろ。第二、第四小隊長を会議室に呼べ。第三小隊長は現状を維持。俺もすぐ行く。第一小隊長? 鳥越はここにいる」

「隊長、何事です?」

「敵だ。風力発電所が、蒼い水と名乗るバンディッツに襲われた。守備隊は全滅したらしい。ただちに作戦会議を開く」

ハンドセットを叩きつけるように置いた楠木の顔に、先程までの“やさしい父親”という表情は微塵も残っていなかった。そこにあるのは、長年に渡って戦場を疾駆してきた軍人の顔だった。

「了解!」

みゆきの表情も“偉丈婦の鳥越”に戻っていた。

第一級警戒態勢を報せるサイレンが鳴り響く中、二人は鉄階段を踏み鳴らして階下に駆け降りた。

 

神白市街地中心部から西へ数キロの地点、国道16号線とJR北陽線の間に挟まれた自動車学校跡に、A中隊は本部を構えていた。

敷地内には、事務棟兼校舎として使用されていた鉄筋コンクリート一部二階建ての建物がある。楠木とみゆきが“ゴリアテ”を操作していた部屋は、練習コースを見下ろす二階部分だった。

「第三小隊を呼び出せ!」

通信室兼会議室として使用している部屋に駆け込んだ楠木は、通信兵に向かって鋭い声で命じた。

部屋の中央に置かれたテーブルの上には、二枚の地図が広げられていた。一枚は神白市の全域地図。もう一枚はA中隊守備地域を中心とした地図だ。

全域地図を覗き込みながら赤色マーカーを取り上げた楠木は、風力発電所を示す記号の上に、大きくバツ印を書き込んだ。

「第三小隊長、出ました」

緊張した面持ちの通信兵が、楠木にハンドセットを差し出した。

「島瀬、サイレンは聞こえたな? バンディッツが襲撃してくる。クソ野郎どもを一歩も近づけるな!」

口早に命令を伝えた楠木がハンドセットを通信兵に返した時、第二小隊長の倉田と第四小隊長の松長が部屋に入って来た。

「状況を説明する」

三人の小隊長の顔を素早く見廻した楠木は、全域地図に書き込んだバツ印を指し示した。

「風力発電所が、蒼い水と名乗るバンディッツ集団に襲われた。守備隊は全滅したと思われる。発電所から市街地への送電は十分前にストップした。C中隊の情報が正しかった事が証明されたわけだ。…面白くも無いことだがな」

一旦言葉を切り、マーカーを取り上げる。

「これからも、情報通りに、敵が、動くとすれば…」

一言一言区切りながら、マーカーを地図上に滑らせていく。D中隊が駐留する北陽インターチェンジ北方のホテル跡、C中隊が守備する守川町、E中隊が守る神白城址を赤丸で囲んだ。そして最後に、自分達A中隊が居る地点も赤く囲んだ。

「敵は…蒼い水は、東と南と西の三方向から市街地を包囲する。そのタイミングは遅くとも日暮れまで、早ければ今すぐだ」

改めて部下達の顔を見廻した楠木は、矢継ぎ早に命令を下した。

「松長、シフト ベータに従って丘の麓に展開しろ。島瀬と協調して、敵の侵攻を防げ」

「ハッ! シフト ベータに従って丘の麓に展開します」

A小隊本部が置かれている自動車学校跡の北方は、幾つもの丘が東西に連なった丘陵地帯になっている。国道はその丘陵地帯と自動車学校跡の間を通って神白市街地へと至る。

島瀬准尉の第三小隊は、本部から二百メートルほど西にある、国道を見下ろす丘の頂上部に布陣していた。

「倉田、廃工場に向かえ。松長と島瀬に迎撃された敵は、一隊を廃工場方向に迂回させて、本部の南側と東側を抑えようとする筈だ。それを防ぐのがオマエの任務だ。それまで、敵に発見されないように潜んでいろ」

「ハッ! 廃工場に潜みます」

廃工場は、本部の南二百メートルの地点にある。その間にあるのは、東西に伸びるJR北陽線の鉄路と朽ち果てた数軒の民家だけだ。

「隊長、私は?」

みゆきの質問に、楠木はニヤリと笑った。

「鳥越、おまえはA中隊の切り札だ。おまえの役目は、いつもの通り…」

倉田と松長の顔を交互に見る。

「この二人や島瀬がビビり始めた時に、傍に行ってケツを蹴飛ばしてやることだ」

楠木の言葉に、三人の小隊長は声を揃えて笑った。

「だが、今回の相手は今までとは違う。C中隊の情報通りだとすれば、敵の総兵力は三千近い。そして、我々A中隊に対する敵兵力は四百。本部からの救援は望めない、と考えるほうが妥当だろう。戦うだけ戦って、防ぎ切れないと判断したら潔く後退する。判ったな?」

「ハイッ」

「判りました」

「了解」

答えた三人の小隊長の顔から、笑いは消えていた。

「よし、配置に就け」

松長と倉田は、敬礼もソコソコに足早に会議室を出ていった。一足遅れて部屋を出かけたみゆきに、楠木は声を掛けた。

「鳥越よ」

「はい、何か?」

「…いや、何でも無い。無茶はするなよ」

「判ってます。オヤジさん」

ニコリと笑ったみゆきは、軍靴の音を響かせて部屋の外へ飛び出していった。

 

みゆきの靴音が遠ざかると、楠木は全域地図上の一点…神白城址に、視線を落とした。

(“倉沢のことは心配じゃないのか?”と、聞きたかったのだが…)

神白城址をマーカーで囲った時、みゆきの顔が一瞬強張ったのを、楠木は視線の端で捕らえていた。

(あれだけ男勝りできっぷがいいくせに、好きな男に告白の一つもできんとはな。…ま、なんだかんだと言っても、恋愛に関しては初心者と言う事か)

小さく溜息をつくと、楠木は腕時計に視線を移した。午後三時四十五分。

「明日まで、俺は生きているだろうか?」

 不吉な予感が心の中をよぎった。

            *

「判った。予定通り作戦を続行しろ。通信を終わる」

ハンドセットを通信兵に戻すと、渋沢はジープを降りた。県道を横断し、やや奥まった所にある民家に向かう。

民家の前庭に如月のジープが止まっていた。数名の兵士が、所在なげにその周りをうろついている。靴音高く近づいて来る渋沢に気付いた兵士達は、慌てて居住いを正し敬礼した。

「総帥は?」

立ち止まった渋沢は、几帳面に答礼しながら尋ねた。

「ハッ、中におられます」

兵士の一人が答えた。

「誰か護衛に付いているのか?」

「いいえ」

「おまえ達は総帥付きの護衛兵だろうが? ここは敵地に近い。総帥の傍に居なくては護衛の意味が無かろう」

不機嫌な表情を浮かべながら、渋沢は玄関に向かって足を踏み出した。

「あ、あの・・・。“誰も入れるな”と、総帥から命じられています」

別の兵士が、慌てて制止の声を上げた。

「誰も入れるな? どういう事だ? 総帥は何をしておられるのだ?」

問い詰められた兵士は、やや躊躇してから小声で答えた。

「あの、村辻さんと…」

「・・・」

渋沢は深い溜息をついた。

(部下が命を賭して戦っている最中に女を抱くとは…)

「構わん。責任は俺がとる」

大股で前庭を突っ切り、玄関の扉を勢い良く開ける。

「あん、んん…」

扉を開けた途端、呻きとも喘ぎともつかぬ艶っぽい女の声が聞こえてきた。

(恥知らずが…)

「総帥! 渋沢です。東部及び西部遊撃隊、予定通り牽制行動に入りました!」

怒りで声が上ずり、握り締めた拳がブルブル震えた。

喘ぎ声が止まり、一呼吸置いて如月の太い声が聞こえてきた。

「十五分後に出発する。準備しておけ」

「ハッ、そのようにします」

(それまで、せいぜい女の腹の上で愉しんでやがれ。ゴリラ野郎がっ!)

屋外に出た渋沢は、乱暴に扉を閉じた。

 
以下次号

 

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