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私ことFKRGが書いた小説(らしき物)を掲載しています。あらかじめお断りしておきますが、かなりの長編です。 初訪問の方は、カテゴリー内の”蒼い水、目次、主要登場人物”からお読み下さい。 リンクフリーです。バナーはカテゴリー内のバナー置き場にあります。 フォントの都合上、行間が詰まって読みにくいかもしれません。適当に拡大してお読み下さい。
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蒼い水 第4章 包囲 3 アップします。

しかし、読んでる人がいるんだろうか?

蒼い水               作 FKRG

 

第4章 包囲3 

 

午後四時、守川町C中隊本部。

謎の男からの無線連絡を受けて以来、遠村たちC中隊の指揮官は、目まぐるしく推移する情勢への対応に振り回され続けていた。六時間前、KCD C中隊中隊長代理 遠村誠准尉は少尉に任ぜられ、正式にC中隊中隊長に任命された。そして、それと時を同じくして、本部から補充兵が到着した。

だが、遠村の昇格と補充兵により、中隊としての体裁が整ったと安堵できたのは束の間の事だった。

補充兵全員が、つい先日入隊したばかりの“まっさらの新兵”だということが判明したからだ。大慌てで部隊編成を組み直し、漸く一息ついた途端、今度は神子川河口の風力発電所が襲われ守備隊が全滅し、発電所からの送電がストップした旨の連絡を受けた。

それが、三十分前の午後三時三十分。

そしてつい先程、神白市街地の西数キロ地点を守備するA中隊と、市街地東南数キロ地点のD中隊の正面に、それぞれ四百名近い蒼い水の部隊が現われた事を知らされた。

「謎の男からの情報は、どうやら正しかったな」

「ああ、嫌になるほどな」

第一小隊長の勝部志郎准尉が呻き声を漏らすと、第三小隊長の狭山克彦准尉が疲れ切った声で相槌を打った。

「で、本部は、俺たちにどうしろと言うんだ?」

第二小隊長の十条努准尉が、不精ひげをこすりながら遠村に尋ねる。

「ここを守れとさ」

名実共に部下になった仲間たちに向かって、遠村は物憂げな口調で答えた。

「おいおい。あの情報通りなら、もうすぐここにバンディッツ…蒼い水とか言ったな…の本隊がやって来るんだぜ。それを俺達だけで迎え撃てと言うのか? これまた情報通りなら、相手は二千人いるんだぜ」

第四小隊長の渡瀬孝雄准尉が、強張った声で言った。

「あの情報は、敵のハッタリの可能性がある。敵の兵力はA中隊とD中隊の前に現れた八百名だけで、主力など存在しない。主力が別に居ると思わせておいて我々の機動を鈍らせ、その隙に乗じて市街地に侵入しようとしていると思われる。ゆえに、タイミングを見計らってA中隊とD中隊を後退させ、追従して来る敵をB中隊と親衛中隊の一部が側面から衝いて殲滅する。それが、本部の見解と作戦だ」

「誰だ? そんな脳天気な事を言う奴は!?」

狭山が怒鳴り声を上げた。

「梨村参謀…殿だ」

遠村と共に本部からの通信を聞いていた勝部が、面白くも無さそうな顔で答えた。

「梨村少尉? 参謀は、真宮少尉に代わったんじゃないのか?」

十条が、首を傾げながら質問した。

「交代は今朝決まったばかりで、引継ぎは三日後の予定だった。どちらにせよ、この騒ぎが収まるまで参謀の交代は不可能だ。従って、相変わらず参謀は優秀なる梨村少尉殿だ。かくして、俺たちはF中隊の二の舞を…。いや安城さんが二の舞、風力発電所守備隊が三の舞だから、俺たちは四の舞を…」

「やめろ、勝部」

勝部の皮肉に満ちた言葉を、遠村が押し殺した声で制止した。

「今、ここでどうこう言っても、どうしようもないだろう。現実的な善後策を考えるべきだ。…実は、E中隊の倉沢さんから提案があった」

「なんだ? どういう提案だ?」

倉沢は遠村の、つまりC中隊の後見役という事になっている。その倉沢が何を提案して来たというのか? 興味津々と言う顔つきで、四人の小隊長は身を乗り出した。

彼らの顔を見廻しながら、遠村は厳かに言った。

「“敵が来る前に、神白城址まで後退する”という提案さ」

               *

午後七時、太陽は既に没していた。

だが、夜の闇はどこにも見当たらない。薄いオレンジ色の光が、守川町の家並みをぼんやりと包み込んでいる。昼でもなく夜でもない、太陽は空の何処にも無いというのに妙に明るい、日没直後の不思議な時間。

「逢魔が刻…魔物と出会う時…と言うんだよな。こういう時間帯を…」

民家の壁際に身を寄せた蒼い水第一突撃隊副長 木場康平は、双眼鏡を覗き込みながら、うそ寒そうに呟いた。

楕円形に区切られた視界の中に、コンクリート二階建ての建物が見える。JA守川町支所跡だ。五日前の攻撃で守川小学校が消失して以来、KCDの守川町守備隊は、県道から五十メートルほど引っ込んだ所にあるこの建物に本部を移していた。

建物の前にある駐車エリアには数台の車が停まっているが、どこにも人影は見当たらない。

「薄気味が悪い。ここに来るまで誰一人、出会っていない。KCDの奴ら、何をしてるんだ? まさか、こんな時間から寝ている訳も無いし…」

考え込む木場の肩を、通信兵がそっと叩いた。

「なんだ?」

「郷原隊長です」

通信兵から受け取ったハンドセットの受話口から、郷原の苛立ちを含んだ声が聞こえた。

「木場、何をグズグズしている。さっさと攻撃を始めんか」

「は、はあ…」

木場の脳裏に、二人の男の顔が浮かんだ。一人は、直属の上官である郷原の顔。そして、もう一人は、総帥である如月。郷原の傍には総帥が居るに違いない。郷原以上にイラついた表情を浮かべ、あのショットガンを持って…。

木原中学校での情景が頭をよぎった。如月のショットガンで頭を吹き飛ばされ、埋葬すらされることもなく草むらに放置された哀れな下級指揮官の死体。

背筋に悪寒が走り、体が震えた。蒼い水の兵士達にとって、最も恐ろしい存在は敵ではない。自分達の総帥である如月なのだ。

「了解しました。五分後に攻撃を開始します」

ハンドセットを通信兵に返した木場は、周りに居る数名の兵士に向けて手を振った。兵士たちは無言で頷き、四方に散った。

四分後、JA支所跡は二百名の兵士に取り囲まれていた。支所跡へ百メートルの位置まで前進した木場は、目の端に何か光る物を捉えた。それは、点滅する赤い小さな光りだった。

左前方の民家の軒先に、赤錆びた軽トラックが放置されていた。赤い点滅は、そのトラックの荷台に置かれた円筒形の缶の側面から発せられている。暗緑色に塗られたその缶と同じ物が、つい先ほど通り過ぎた民家の軒下にも置いてあった事を、木場は不意に思い出した。

「しまった!」

低く叫んだ時、点滅が止んだ。目の眩むような真っ白な光りが閃き、凄まじい轟音と共に黒い塊が木場に向かって飛んで来た。

爆発音が収まると、赤黒い煙に覆われた家並みのあちこちから、助けを求めるか細い悲鳴や苦しげな呻き声が聞こえてきた。木場の指示を求める部下達の声が、それに混じっている。 

だが木場は、その声に応じる事が出来なかった。なぜなら彼は、飛んできた黒い塊…軽トラックのタイヤだった…に頭を押し潰されていたからだ。

            

守川町を南から見下ろす丘の上に立った郷原と渋沢は、JA守川支所跡の周囲から立ち昇る赤黒い煙を呆然と見つめていた。

「銃声が聞こえない。KCDのヤツラは爆弾を…。おそらくは遠隔操作式の爆弾を仕掛けていたに違いない。徹底的にやる気なら、爆発によって混乱している木場隊に対して銃撃を加えるはずだ。だが、銃声が一発も聞こえないということは、さっさと後退してしまったという事を意味している。奴らが、こうもあっさりと守川町を放棄するとは、思いもよらなかった」

渋沢がかすれ声で呟いた時、背後から低い地鳴りのような声が聞こえた。

「KCDは紳士的な連中だと聞いていたが。中々どうして、荒っぽい事をするじゃないか」

二人は、同時に振り返った。

サングラスを掛けた如月が、背後に護衛兵を従えて立っていた。

「郷原、何をボケッとしている。さっさと隊を再編しろ。失った兵は後衛部隊から補充すれば良い。一時間後に、神白城址に向けて出発する」

郷原は、不安と恐怖をない交ぜにした目で如月を見つめた。

「しかし、総帥。私は…」

 如月はサングラスを外した。その目は、微かな微笑を浮かべていた。

「郷原よ。俺は、この戦、簡単に勝てるとは思っていない。いや、むしろ相手が手強い方が良いとさえ思っている。その方が、勝利を手にした時の喜びが大きいからな。責任を感じるのは良い。だが、敗北は勝利で償え。判ったな?」

郷原の顔に安堵の色が浮かんだ。

「判りました。ただちに部隊の再編を行います」

敬礼もそこそこにして郷原が丘を駆け下って行くと、如月の目から笑いが消えた。

「渋沢、おまえの計画とはかなり違ったな。奴らはここを…守川町を、死守するんじゃなかったのか?」

打って変った不機嫌な口調で渋沢を詰問する。

「協力者からの情報によれば、ここの守備隊…C中隊は、徹底抗戦を指示されていたはずなんですが」

答える渋沢の声は微かに震えていた。不吉な予感が脳裏を覆っていたからだ。

(俺が構築したシナリオの何処かに抜かりが有ったのか? それとも…。いや、そんな事は無い)

頭を強く振り、渋沢は言葉を継いだ。

「全てが計画通りには行かない。そのことは総帥、あなたも良く御存知のはずだ。ここに至るまでの間に、齟齬をきたした事は幾度もあった。だが、我々はそれらを乗り越えてここまで来た。木場には気の毒だったが、とにかく守川町は手に入れた。予定通り、作戦を遂行していくしか無いでしょう。今更、後戻りは出来ない」

そう言い切った渋沢の声は、もう震えていなかった。

「ふん、そうだな。お前の言う通りだ。計画通りに事が運んでいれば、この国はこんな状態になってはいなかった。おまえは防衛軍の高級参謀としてデスクの前にふんぞり返り、俺は中国辺りで暴れ廻っていただろう」

如月はニヤリと笑うと踵を返し、護衛兵を従えて丘を駆け下って行った。

丘の上に残った渋沢は、改めて守川町の家並みを見下ろした。

爆煙は既に薄まっていた。だがそれとは逆に、脳裏を覆う不吉な予感はますます濃くなっていくばかりだった。

(誰かが計画を邪魔しようとしている。誰だ? 誰が邪魔をしているのだ?)

風が湿り気を帯びてきた。漸く瞬き始めた星が、西から流れてくる黒い雲に飲み込まれていく。雨が降るかもしれない。

 
以下次号

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