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私ことFKRGが書いた小説(らしき物)を掲載しています。あらかじめお断りしておきますが、かなりの長編です。 初訪問の方は、カテゴリー内の”蒼い水、目次、主要登場人物”からお読み下さい。 リンクフリーです。バナーはカテゴリー内のバナー置き場にあります。 フォントの都合上、行間が詰まって読みにくいかもしれません。適当に拡大してお読み下さい。
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蒼い水 第4章 包囲 4 アップします。

手ごたえが全く無い!
掲載を継続するのが再び空しくなってきた今日この頃。

蒼い水               作 FKRG

 

第4章 包囲4 

 

「安城少尉、秋川少尉が話し合いたいと言ってます。急いで用意して下さい」

午後八時、吉野晴美はロッジの玄関ドアに向かって大声で叫んでいた。随伴してきた二人の兵士が、ドアに打ち付けられた板を引き剥がしている。

板を取り払ってドアを開けると、安城とさゆりが寄り添うようにして立っていた。二人とも戦闘服を着込み、軍靴を履いている。

「あら、もう着替えたの? 素早いのね。二人とも」

 晴美は、殊更大袈裟に驚いて見せた。

「何を言ってるんだ。夕食を運んで来た時、“今夜、秋川が会談を求めて来るはずだから、準備しておくように”と言ったのは、あんただろうが」

と言いいかけた安城だったが、晴美の背後に立つ二人の兵士が杉原と川島だと気づくと、慌てて口を噤んだ。安城は、彼らに対して不信感を抱いている。銃を向けられたから、という訳ではない。あえて言えば、第六感というヤツだ。

 数瞬の沈黙の後、安城は改めて口を開いた。

「日暮れ頃から妙にざわついてたからな。バンディッツの襲撃でもあるんじゃないかと思って、いつでも飛び出せるように着替えていたんだ」

「あら、そう。さすが幹部ともなると違うわね。じゃあ、行きましょう」

そう言うと晴美は、クルリと踵を返した。

晴美も杉原と川島に好感情を持っていない。一週間ほど前、休養と称してダムにやって来た彼らだが、他の隊員と打ち解けようともせず、いつも二人だけでボソボソと何か話し込んでいる。その上、秋川の動向を監視している節さえ窺えたからだ。

「ダムに居座り続ける秋川に裏切りの疑いを持った本部が、監視の為に送り込んできたのか?」

 とも考えた。だがそれなら、秋川を糾弾する為に本部から派遣されて来た安城に銃を向けたのは、どういう事なのか? 

(いずれにせよ。今夜、はっきりするでしょう。秋川と安城少尉の話し合いがどういう結果になるにせよ。あの二人は何らかの行動を起こすはず。どう対応するかは、その時に考えれば良いわ)

 元々が楽天的性格の持ち主である晴美は、そう考えていたのだった。

 

保養センターまでの真っ暗な道を、五人はゆっくりと歩いた。ランタンを持った川島を先頭に、少し距離を置いて安城とさゆりが並んで歩き、その後に晴美、最後尾に杉原が続く。

微かな石鹸の匂いが、晴美の鼻腔をくすぐった。その匂いは、すぐ前を歩く安城とさゆりから漂って来る。

(ロッジに置いといた石鹸の匂いだわ。そういえば二人の戦闘服、やけに綺麗になってるわねえ。安城少尉のなんか、綻びが繕ってあった。さゆりがしたに違いないわ)

 ほのぼのとした喜びが心の中に満ちて来るのを、晴美は感じた。

「私の夢は、好きな人の身の回りの世話をしてあげることなんです。洗濯して、掃除して、御飯を作ってあげて…。もし服が破れてたら繕ってあげる。これでも私、料理や裁縫が得意なんですよ。だから、お願いです。C中隊に…安城さんの中隊に配属されるように、人事担当の人に頼んで貰えませんか?」

 安城への思いを晴美に打ち明けた時、さゆりは目を潤ませてそう言った。

(良かったわね、さゆり。“憧れの王子様と一緒になれたお姫様”ってところね。でも…)

心の中を満たしていた喜びが、不意に悲しみに変わった。

(でも、亜衣の思いは叶わなかった)

市木亜衣は、桜と結ばれぬまま死んだ。

(だから、さゆりには、由衣の分まで幸せになって欲しい。その為に私は今まで精一杯助けてきたし、これからもそうする)

「そう、誰にも邪魔はさせない」

晴美は、自分にしか聞こえない小声で呟いた。

 

秋川が待つ中隊長室の前で一悶着が起きた。安城に続いて部屋に入ろうとしたさゆりを、杉原が制止したからだ。

「小川初級兵、オマエは入らなくて良い」

「私の職務は安城少尉の護衛です。少尉から離れません」

「護衛? 裏切り者に護衛なんぞ不要だ。オマエはこっちで待ってろ」

 居丈高に命じ、さゆりの肩を掴む。

「気安く触らないでよ!」

その手を振り払ったさゆりは、今にも噛みつきそうな目で杉原を睨み付けた。

「安城少尉が裏切り者ですって? 証拠は有るの!? 証拠も無しに裏切り者呼ばわりするなんて上官侮辱罪よ!」

「し、証拠? そ、それは…」

 杉原は絶句してしまった。華奢で大人しそうなさゆりの容貌からは想像も出来ない激しい言動に、気後れしてしまったのだ。

慌てたのは晴美だった。

(あちゃ~、さゆりったら。お姫さまから一転してジャンヌ・ダルクになっちゃってる。…でも、こんな所でゴタゴタしてる場合じゃないのよね。ここは何とか誤魔化して…)

「まあ、良いじゃない。二人とも丸腰だし、私も同席する事だし。杉原さんと川島さんは、ここに居れば良いでしょう。何かあれば、すぐ呼ぶわ」

口早にそう言った晴美は、さゆりの手を引いてさっさと部屋に入り込んだ。まだ何か言いたそうな杉原と川島を廊下に残したまま、素早くドアを閉じてしまう。

(やれやれ、これで一安心)

とは、いかなかった。部屋の中に、険悪な雰囲気が漂っていたからだ。秋川と安城が、テーブルを挟んで突っ立ったまま睨み合っていた。二人とも、今にも殴り合いを始めそうな顔つきをしている。

(しょうがないわねえ。まるで子供だわ。この二人)

 溜息を漏らした晴美だったが、すぐに表情を改めた。“言うことを聞かない子供を叱る母親”の顔になったのだ。

「あんたたち、なに睨めっこしてるのよ。話す事があるんでしょう?! 案山子みたいに突っ立ってないで、座って話しなさいよ」

晴美に一喝された二人は、渋々とソファに座った。

短い沈黙の後、安城が口を開いた。

「で、話とはなんだ? まさか昔話でもしようと言うんじゃないだろうな」

口調が皮肉っぽい。

「これからどうすべきかを相談したい」

「どうすべきか? おまえは、もう戦いたくないんだろう? 今まで通り、このダムに篭っていれば良いじゃないか。冬眠中の熊みたいに…」

「そのつもりだったが、そうは行かなくなった。事態は、俺が予想していた以上に深刻だ」

 安城から挑発的な言辞を浴びせられても、秋川は怒る素振りすら見せなかった。それどころか、道に迷って途方に暮れた子供のような目で、安城の顔を見つめている。

「安城、俺は迷っている。ここに…ダムに篭って状況を静観すべきなのか…。それとも打って出るべきなのか…。相談にのってくれ」

 安城はすぐには答えなかった。ちらりと晴美に視線を向ける。

「お願い。相談にのってやって。そして目を覚まさせてやって」

 晴美の目は、そう言っていた。

(吉野上級兵には世話になっている。むげには断われない。それに、今を逃がしたら全てが手遅れになる)

 そう考えた安城は真顔になった。

「わかった、相談にのろう」

「ありがたい」

 秋川の顔に安堵の色が浮かんだ。

「だがその前に、現在の状況を詳しく教えてくれ。今日の午後六時までの状況は、夕食を運んで来てくれた吉野上級兵から報告を受けている。だが、それ以降、今までの二時間の間に、状況はどう推移したんだ? 蒼い水の前衛部隊に包囲されたA,D中隊はどうなった? そして、守川町は…C中隊はどうなったんだ?」

「勿論、俺が知っている限りの状況を教える。まずは…」

頷いた秋川は、状況説明を始めた。

(ま、取り合えずはこんな所でしょ。話してる内に打ち解けるはずよ。元々、仲は良いんだから)

安堵の溜息を漏らしてドアの前に戻った晴美だったが、さゆりの顔を見た途端、今度は不安の溜息を漏らす羽目になった。

さゆりは、食い入るような目つきで安城と秋川を見つめていた。愛する男を守ろうとする決意に全身が強張っている。秋川が少しでも不穏な挙動をとれば、すぐにでも飛び掛りかねない剣幕だ。

(やれやれ、さゆりったら、目がイっちゃってるじゃない。仕方ない。例の物を渡して気を落ち着かせるか)

「さゆり、お茶の用意を手伝って頂戴」

何食わぬ顔でさゆりを促した晴美は、秋川の背後の壁際に置かれたテーブルに歩み寄った。そのテーブルの上には茶道具が並んでいた。

さゆりと並んで茶の用意をしながら、晴美は上着のポケットに手を突っ込んだ。掌に載るほどの小型拳銃をそっと取り出す。スミス・アンド・ウェッソンM36“チーフス・スペシャル”だ。

銃に気づいたさゆりは、目を丸くして何か言いかけた。

「しっ」

唇の前で人差し指を立てた晴美は、極端に銃身の短いリボルバー拳銃を、さゆりの戦闘服の裾ポケットに落とし込んだ。

「いい? あなたが警戒すべき相手は秋川じゃない。杉原と川島よ」

聞こえるか聞こえないかの小声でささやき、ドアに向かって顎をしゃくる。

「…」

さゆりは、無言のままコクリと頷いた。

 
以下次号

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