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私ことFKRGが書いた小説(らしき物)を掲載しています。あらかじめお断りしておきますが、かなりの長編です。 初訪問の方は、カテゴリー内の”蒼い水、目次、主要登場人物”からお読み下さい。 リンクフリーです。バナーはカテゴリー内のバナー置き場にあります。 フォントの都合上、行間が詰まって読みにくいかもしれません。適当に拡大してお読み下さい。
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蒼い水 第4章 包囲 1 アップします。

数少ない愛読者の皆様、ご愛読ありがとうございます。
本作品の折り返し点がやって参りました。

私の座右の銘の一つに”色即是空”と言うのがありますが、それに従って、
本章以降、これまで登場した数多くのキャラクターが次々と”あっち”に行っちゃいます。

気が向いたら、コメントお願いします。

蒼い水               作 FKRG

 

 

第4章 包囲1 五月七日午後~

 

 

 

東西三百メートル、南北二百メートルの長方形を成す神子川風力発電所の敷地は、東と西と南を松林に囲まれ、北は海に面している。

 

コンクリート平屋建ての管理棟が敷地のほぼ中央に建っており、その北側…つまり海に面して西から東へ一号機、二号機、三号機の順で、合計五機の風力発電機が等間隔で並んでいる。

その内訳は、出力九百KWのドイツ製発電機が二機、八百五十KWの日本製発電機が三機の計五機。しかし、今現在、稼働している発電機は日本製の三号機と五号機の二機だけに過ぎない。

ドイツ製の発電機は、WW3勃発の一年後、二機とも停止した。戦争の為にメーカーの日本代理店が閉鎖され、メンテナンスを受ける事ができなくなったのがその理由だった。残った三機の日本製発電機も、メーカーが戦災により消滅してしまうと、まともなメンテナンスを受ける事ができなくなった。

WW3末期のAD二〇一〇年春、日本製の一機が完全に停止し、残り二機の出力も大幅に減少した。貴重な電力供給源の消失を恐れた神白市長 島崎順一は、防衛軍燃料備蓄庫守備隊に救いを求めた。

それを受けた当時の守備隊隊長 楠木清三から発電施設の復旧と管理維持任務を命じられたのが、工兵隊に所属していた福間光雄だった。

最初は渋々ながら任務に就いた福間だったが、乏しい資材と工具を使って悪戦苦闘する内に、自分の子供に対するような愛着を発電施設に持つようになった。WW3が終結しKCDが創設されると、福間は技術将校として入隊したが、入隊の動機は発電所の復旧作業を続ける事にあった。

「今にも死にそうなガキだが、俺が面倒見てやらなくちゃ本当に死んじまう。俺は、コイツらを生き返らせてやるんだ」

福間は寝食を忘れて働き、“死にかけていた”二機の発電機を見事に生き返らせた。それは、KCDが再編成され、神白の住民全てが市街地で暮らすようになった頃だった。

 

 

午後三時五分、“神子川風力発電所の父親”を自認する福間は、敷地東端に立つ五号発電機の真下に座り込んでいた。

 

高さ五十メートルの鉄塔の頂上に取り付けられた巨大な風車が、唸り声のような低い音を立ててゆっくりと廻っている。

「どうだ中崎、D中隊を辞めて技術部の方に来ないか? 人手不足でな。キミが来てくれると、大いに助かるんだが…」

「はあ」

 工具の手入れをしていたD中隊中隊長付き護衛兵の中崎隆哉初級兵が、キョトンとした表情を浮かべた。

「技術部は気楽だぞ。和気あいあいで仕事が出来る。真宮は怖いだろう? あいつ、目付きが悪い上に無愛想だし。普段は無口なくせに、たまに口を開くと容赦が無いし・・・」

「はあ、考えときます」

口調自体はそうでもないが、表情は“その気”になっているように福間には思えた。

昨日の午後、D中隊から助手として派遣されてきた中崎だったが、何を言っても、「はあ、まあ…」と答えるばかりで口数が少なく、ジョークを飛ばしても反応が鈍かった。

(おいおい、大丈夫かよ。こいつ)

最初は不安を感じた福間だったが、発電設備のチェックやメンテナンス作業を一緒にしている内に徐々に気心が知れてきた。中崎の口数も多くなり、福間の下らないジョークにも乗って来る様になった。しかも、工業系の学校を出たと言うだけあって、作業手順の飲み込みが滅法早く、そのお蔭で、丸二日は掛かると思っていたメンテナンスが一日ちょっとで終わった。

(何はともあれ、コイツは実戦部隊向きには見えない。それに、あの気難しい真宮の下では辛かろう。案外、真宮もその辺りを見抜いて俺の助手に寄越したのかもしれん)

「まあ、前向きに考えてくれ」

福間は、ゆっくりと立ち上がった。

「俺達技術部の仕事は、地味だが重要だ。特に、この風力発電機は役に立ってる。コイツのお蔭で居住区でも電気を使うことが出来るんだからな。エンジン発電機も有るが、居住区全てをカバーすることは出来ない。しかも、燃料は有限だ。その点、コイツはメンテさえしっかりやってやれば何年でも保つ。風は、永遠に吹くしな」

鉄塔の外壁を愛しげに撫でさすりながら、中崎に笑いかける。

「ええ、そうですね」

つられて中崎が微笑みかけた時、鈍い音がした。

中崎の戦闘服の左胸に、赤黒いシミが浮かび上がった。シミは急速に広がっていく。

「ぐ、ううう…」

呻き声を漏らした中崎は、「なぜ?」という表情を浮かべて前のめりに倒れた。背中に親指大の穴が開き、ゴボゴボと血が涌き出ている。

(敵?!)

慌てて周囲を見廻した福間の目に、東へ二百メートル程離れた神子川の堤防斜面に生い茂った草むらの中で、白い小さな光りがきらめくのが映った。反射的に地面に伏せた瞬間、金属が金属にぶち当たる甲高い音が背後から聞こえた。福間を狙った銃弾が鉄塔に命中した音だ。

「クソッたれ!」

歯ぎしりしながら叫んだ時、管理棟の方から爆発音が聞こえた。

(なんなんだ。今度は?)

這いつくばったまま、顔だけ管理棟に向ける。管理棟の玄関前に止めてあった福間のミニバンが、赤黒い煙を上げて燃えているのが見えた。

管理棟から十名近い兵士が飛び出してきた。昨日から風力発電所の守備任務に就いている新兵達だ。銃こそ構えているが、どう対応して良いのか判らないのだろう。炎上する車の周りでウロウロするばかりだ。

「馬鹿野郎! 伏せろ! やられるぞ!」

福間の叫び声を掻き消すように、松林の中から一斉射撃の銃声が響いた。新兵達がバタバタと倒れていく。

「俺の大事な発電所を攻撃してきた上に、助手にしようと見込んだ中崎まで…」

 怒りで全身が震えた。相手が誰であれ、一矢報いねば気が済まない。目の前に、スコープ付きの小銃が転がっていた。中崎の銃だ。“邪魔だし、撃っても当たらん”と言う屁理屈をつけて車の中に銃を放り込んだままの福間と違い、律儀な中崎は服務規定に従って銃を常に身近に置いていたのだ。

「真面目なヤツほど早死にする、か…」

死体になった中崎を横目に見ながら、銃を引き寄せる。

コッキングハンドルを引き、セレクターをセミオートにセットする。伏せ撃ちの態勢でスコープを覗き込み、銃口を左から右にゆっくり動かす。百メートルほど先の松の木蔭に敵兵がいた。福間の方に背中を向けている。

「野郎、じっとしてろよ」

クロスラインを敵兵の背中に重ね、慎重に引き金を絞る。乾いた射撃音が響き、スコープ越しの視界がブレた。ブレが収まった時、敵兵は松の幹にすがりながらズルズルと体を沈めているところだった。

「当たった。ザマア見ろ、俺の発電所を襲った報いだ。このクソ野郎!」

喚声を上げた途端、視界の端で白い光りがきらめいた。半瞬の間を置いて、側頭部に激痛が走る。痛みは、すぐに気だるさに変わった。全身から力が抜け、目の前が暗くなっていく。

「クソ野郎。俺の発電所から、とっとと出て行…」

呟き終らぬ内に、福間の意識は途切れた。

風の向きが変わり、それにつれて風車も向きを変え始めた。福間の死を悼むかのように、哀しげな軋み音を響かせながら…。

              *

黒畑芳正が風力発電所の管理棟に姿を現したのは、福間が絶命した数分後だった。玄関前にたむろしていた数名の兵士が、慌てて敬礼する。

「警戒を怠るな」

そっけない口調で命じた黒畑は、持っていた狙撃銃を兵士の一人に押しつけ、足早に管理棟に入った。

玄関に続くロビーは、血と硝煙の匂いで充満していた。テーブルや椅子が床に倒れ、血にまみれたKCD兵士の死体があちこちに転がっている。壁は銃弾で穴だらけになっており、壁に掛けられていたのであろう風力発電所の全景写真が血に染まって床に落ちていた。

「あっけなかったな。情報通り、新兵ばかりだったようだ」

誰に言うともなく呟いた黒畑は、ロビー右側にあるドアに向かった。

ドアを開けると、そこは八メートル四方ほどの部屋だった。やはり血と硝煙の匂いがこもっている。詰め所として使用されていたらしく、部屋の中央にデスクが“田の字”形に並べられている。そのデスクの上にKCD兵士が一人、胸を真っ赤に染めて仰向けに倒れていた。無論、生きてはいない。

壁際にもデスクがあり、無線機が置かれていた。

「これは、これは…」

黒畑の相好が崩れた。口笛を吹きながらテーブルに近づく。無線機に興味を覚えた訳ではない。タバコの袋が転がっていたからだ。手早く一本取り出して火をつけ、目を細めて煙を吐き出した時、無線機のスピーカーから気遣わしげな声が流れ出た。

「こちら本部。風力発電所守備隊、状況を報告しろ。敵は撃退したのか? オーバー」

「撃退したかって? 新兵ばかりの部隊にそれを望むのはいささか酷ってもんだろう」

タバコを咥えたままマイクを取り上げ、送話ボタンを押す。

「風力発電所守備隊は全滅した。オーバー」

数秒の間を置いて、スピーカーから狼狽した声が流れた。

「全滅? キ、キサマは何者だ?!」

「俺達は蒼い水。神白の新たな支配者だ。オーバー」

「蒼い水?! 何の事だ! キサマは一体?」

「だから、蒼い水だよ。交信終わり」

素っ気無く答えた黒畑は、マイクを放り投げると同時に腰のホルスターから拳銃を引き抜いた。銃口を無線機に向け、引き金を引く。轟音と共に火花が散り、スピーカーは沈黙した。

銃をホルスターに戻した時、銃声に驚いた兵士達が押っ取り刀で部屋に飛び込んで来た。

「な、何かあったんですか? 黒畑さん」

薄煙を上げる無線機と黒畑を交互に見ながら、兵士の一人が尋ねた。

「なんでもない。ちょっと“電話ごっこ”をしてただけさ。さあ、さっさとやるべきことをやっちまって、撤収するぞ」

短くなったタバコを床に吐き捨てた黒畑は、部屋の反対側あるもう一つのドアに向かった。

ドアの向こうには、地下送電室へ通じる階段がある。送電設備を破壊する事、それが黒畑の任務だ。

四時間もすれば日が暮れる。神白市街地への電力供給をストップすれば、街は暗闇に沈む。闇は、住民に不安感を与えると同時に戦意を喪失させる。それが、この風力発電所を襲撃した目的なのだった。

 
以下次号

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